自社固有に求めるスキルを減らすことができるか

 大企業のビジネスパーソンが中小企業に転職したら給料が半分になってしまった、という話しをよく聞きます。そうなると失った半分は、前の大企業で求められた固有のスキルや知識ともいえます。

 競争戦略論から言うと、企業は独自のスキルやリソースを持つことから競争優位が生まれます。模倣困難なケイパビリティこそ、持続的競争優位の源泉である――RBVの第一人者、ジェイ・バーニー教授はそう主張しました。

 一方で資源を社内に取り込むか否かの基準は「取引コスト」の大きさによると主張したのは、ロナルド・コースです。この場合「取引コスト」には実際に支払う金銭的コストのみならず、細かい社内調整やコミュニケーションの手間などが含まれます。つまり労働コストも、同じ組織の人間にした方が融通が利く場合、内部資源として社員として組織に取り込み、労働の対価だけ購入することで問題ない場合は、外部資源として市場取引で対応するのです。

 さて課題は働く側に立って組織固有のスキルをどれだけ磨くかです。このスキルがないと今いる企業で成果を出すのが難しいですが、キャリアアップのため他社に移籍すると価値を認められません。市場一般で通用するスキルを磨くほうが得策になります。さらに、このジレンマは意欲的に仕事での活躍の場を広く求める人ほど甚大な問題になります。

 企業は意欲のある人が抱えるこのようなジレンマを解消しないと、優秀な人材を引き付けられないことになります。ここで浮かび上がるのは、企業の組織内でもその組織特有のスキルが少なくて済む体制を作ることです。属人的な社内政治や明文化されていない社内慣習を排し、新しく組織に加わった人でも力を発揮する仕組みに変える。その組織固有の独特な仕事の進め方は、その企業が営む事業の競争優位に直結しない限り、極力排除することです。

 言い換えると、外部の労働市場の評価と内部の評価をできるだけ一致させ、オープンな環境を整えることです。そうなれば、高度なスキルを持つ外部の人材を導入しやすくなり、一方でこの企業での経験が外部市場で通用することから、多くの優秀な人材を引き付けることができます。労働市場とオープンにつながる価値基準を有する企業こそ、これからの人材を引き付けるのでしょう。(編集長・岩佐文夫)