デジタル経済において個人情報は新たな通貨であり、金銭と同じ慎重さをもって扱う必要がある。その4つのアプローチを、アクセンチュアの研究者らが事例とともに示す。必要なのはプライバシーの保護だけでなく、「個人情報市場」を安全に発展させる工夫だ。

 

 デジタル経済において、個人情報は新たな通貨である。金銭と同じように容易に国境を越えて移動し、またそれ自体に価値が内在する。個人情報から生まれる知見は、個人や企業、政府に等しく便益をもたらす。

 ただし金銭と違うのは、個人情報の市場が未発達であることだ。個人情報の所有権は誰にあるのか、個人情報の管理者として企業はどんな責任を負うのか、といった重要な問いが、ホットな論点になっている。

 企業が今後も、自社および顧客のために価値を創出する目的で個人情報を利用し続けたいのであれば、金銭を扱うのと同じ慎重さを持って管理する必要があるだろう。そのための4つの主な方法を以下に示したい。

 1.信頼を維持して顧客の流出を回避する

 人は預金をする時、安全かつ容易に資金を引き出せること、そして何らかの形でリターンを得ることを見込んでいる。預けている金融機関への信頼がなくなれば、あっという間に資本の流出が起こりうる。

 今日では個人情報についても、安全と責任に対する懸念が同様の反応を引き起こす。情報セキュリティ会社のセーフネットが2014年に実施した世界的調査によれば、消費者のほぼ3人に2人が「情報漏えいが発生した企業の利用をやめるつもりだ」、または「避けるつもりだ」と回答した。

 エドワード・スノーデンが2013年半ばに米政府の監視体制を告発したことがきっかけで、米テクノロジー業界は1年で最大350億ドルものビジネスを失うという推定もある(海外企業からの信頼とビジネスを失う代償)。

 また2013年半ば以降、個人情報の収集または共有をしないプラットフォームがいくつか出現している。たとえばユーザーが個人情報を知られぬままアクセスできる検索エンジン、ダックダックゴー(DuckDuckGo)は1日当たりの検索数が2013年下半期に倍増し、2015年初めには700万を超えるに至っている。

 信頼を保持するために多くの企業は、セキュリティ対策の強化と、データの取り扱いに関する透明化を並行させながら、顧客の権限を高めている。

 電気通信会社のテレフォニカは現在、「データロッカー」というスキームを開発中だ。ユーザーが自身の情報を可視化された形で閲覧できるもので、たとえば通話やメールをした人々をソーシャルネットワーク(対人相関図)などの形で確認できる。新サービスと引き換えに自身の個人情報を会社側と共有するという選択肢もあり、最も積極的な情報共有者には報酬が与えられる。