また、20年前と同じ課題がまだ残っていて、実行されていない、というご意見も、グローバル人材の流行のように、ほかの分野でも同じようなことを感じることの多い私としては、まさにわが意を得たり! というものでした。

 青山の家と京都の家の比較など、日本のよい点と改善すべき点を客観的に捉えておられ、それを実践しておられるのはとても興味深いと思いました。

  元は日本にそれほど思い入れのないなか、どちらかというと入りやすさとか就職のしやすさから日本学を選ばれた、その後金融へ、そして日本の伝統工芸へとい うこれまでのキャリアのプロセスを、「流れに任せてきた」「ふってくるものには意味があると思った」と説明されたのが、自然体ですばらしいと思います。自分の人生を無駄にしたくない、だから中身のない会議はいや、何でもこたえられる評論家はいや、偽者は許せない、というコメントは、文字にするとか なり強いメッセージなのですが、お話をうかがっていると、そこはかとないユーモアのセンスが感じられて、かえって説得力があると感じました。

 観光立国、世界に冠たるおもてなし、世界一の都市などといわれているけれど、数字を用いて客観的に世界と比較すると、全然事実と違うというお話も、私が常にいっている自信過剰か自信喪失かどちらかに触れることの多い日本の状況を示していると思いました。

 本当のプロの仕事と手抜きされた仕事とは、最後の詰めをするかどうかであり、全く違うというコメントも、プレゼンテーションや原稿など最後にもう一度見直して考えるか、がとても大事なことだと思っている私の経験と似ていると思いました。

 小西美術工藝社の現在の仕事である日光東照宮の陽明門の意義として3点挙げられたのは、とても印象に残りました。

 手抜きをしない、面倒だからやらないということは許さない、工藝は医師や弁護士と同じように、基準を持つ資格でなくてはならない、など強い規律Disciplineへの姿勢は、どこの分野でも同じだ、ととても参考になりました。

  日本は基礎があるのだから、「実行」をすればよい、何でもマイナス思考なのは、国をあげてうつ病症状なのではないか、よく見ると変化してきてはいるが、 もっとできるはずという提案はこれからの私たちにとってとても重要だと思います。時間を忘れるほど楽しく、有意義な対談でした。アトキンソンさん、ありが とうございました。