どんなものにも予兆がある!
著者自身の体験がベースにあることは本書を身近なものにしている。それとともに各章で取り上げられた豊富な事例は、行動心理学の知見とともに、気づくことの重要性を理解させてくれる。たとえば、スペースシャトル・チャレンジャーの爆発事故。低温下で部品が破損したことが原因とされるが、与えられたデータのみで判断するのではなく、もっと適切なデータを求める努力をしていたら、事故は防げたかもしれないという。またハリケーン・カトリーナの洪水被害。こちらは数年前からニューオーリンズの地盤沈下や避難経路の問題から警鐘が鳴らされていたのに、州知事たちリーダーは動かなかった。前者は「自分が見たものがすべて」という行動心理学ではよく知られた誤りが原因であり、後者は未来を楽観視しすぎるという認知バイアスに陥ってしまったためである。ではどうすべきだったのか、何が足りなかったのか――いずれも私たちも知っている出来事であったり、具体的な事例であったりするので、その分析が説得力をもって訴えかけてくるのだ。
「どんなものにも予兆がある!」とベイザーマンは言う。世のリーダーたちが認識力の限界を取り払い、これまで見えていなかったものが見えるようになれば、判断や意思決定の質が向上するのはもちろん、危機管理も容易になるだろう。競争相手に先んじ、不祥事を防ぐことも可能になりそうだ。とはいえ、各章の最後に示されている「ベイザーマン教授の処方箋」という行動指針をすべて実行するのは少々難しいかもしれない。だが、見落としの危険性を意識し、気づく重要性に「気づく」ことは、たしかに有益である。問題は起こる前に処理するのが最善であることは、誰もが認めることだろう。





