さまざまな選択肢がある時にリードがよくやるのは、それらを「軽・中・重」や「簡単・普通・難しい」などに大別することだ。たとえば、リンクトインがシリーズB(第2段階)の資金調達に向けピッチデッキ(投資家向け資料)を作成した際、その発表と周知の方法について我々はさまざまな意見を出し合った(資料の実物はこちらの英語サイトで参照できる)。単に公開ボタンをクリックし、リンクトインとツイッターでシェアして、拡散のされ方を観察する。事前にジャーナリストに見せ、独占記事を書いてもらう。ピッチデッキの公開と同時に、補完的なレポートを書いて発表する。個々のスライドにリードのコメント音声を付けて提供する――。
こうしたさまざまな案を、リードは「基本・中級・上級」に分けた。そして「この資料はどれくらい積極的に発信すべきなのか」を検討し、そのレベルに見合った一連の選択肢を実施したのである。
大きな費用が絡む活動に関する意思決定で、長短両方の要因が複雑に絡み合っているような場合はどうすべきか。複数の理由を組み合わせて考慮するのではなく、「決め手となるただ1つの理由」を求めるのがリードのやり方だ。
たとえば以前、リードの中国訪問の是非をめぐり話し合ったことがある。当時の中国ではリンクトインの拡大プロモーションが進行中で、知的で楽しいイベントが開かれており、『スタートアップ! シリコンバレー流成功する自己実現の秘訣』の中国語版の出版も控えていた。諸々の状況は、総合的に鑑みればリードの訪中を後押しする理由となるが、どれも単一では決定的な理由にならなかった。リードはこう説明した。「ただ1つの確固たる理由がなければならない。その理由に照らして訪問の意義を検討すべきだ。もし行くべきであれば、他の予定はすべて後から考えればいい。行くべき理由がいくつも必要なら、後になってほぼ間違いなく時間の無駄だったと感じるだろう」。結局、訪中は見送られた。
ナシーム・タレブはかつてこう記している。「行動を起こそうとする時、多くの理由を考え出すようであれば、自分を納得させようとしている証拠だ。1つの明白な理由がなければ、実行すべきではない」
リードは、クレイトン・クリステンセンやマイケル・ポーターの文章を暗唱できるような人物ではない。実際、戦略論について正式に学んだことはないし、戦略論の大家を引き合いに出すこともめったにない。戦略意思決定に関する彼の見識は、実体験を通じて苦労して体得したものであり、起業という文脈に特化している。すなわち、霧が立ちこめる戦場のごとく、足元の地形は常に変化していて、次の一手を間違えれば死が待ち受けているような状況だ。そしてその状況はますます、スタートアップ企業のみならずあらゆる企業の競争環境にも当てはまるようになっている。
戦略は、最も多く論考が書かれているテーマの1つだ。それらは総じて読んでいる最中は面白いが、ほとんどの場合頭に残らず、実践に移されることも少ない。「戦略フレームワーク」としてもてはやされるものは、複雑すぎるか、文脈が限定的すぎるか、あるいは抽象的すぎるのだ。一方、リードの2大原則が素晴らしいのは、簡潔にして的を射ており、したがって覚えやすく、しかも効力があることだ。これらの原則に従えば、意思決定の方法をしっかりと確立できるだろう。
HBR.ORG原文:Reid Hoffman’s Two Rules for Strategy Decisions March 05, 2015
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ベン・カスノーカ(Ben Casnocha)
受賞歴のある起業家であり作家。新刊『ALLIANCE アライアンス 人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』、ベストセラー『スタートアップ! シリコンバレー流成功する自己実現の秘訣』は共にリード・ホフマンとの共著。人材マネジメントに関する講演を活発に行っている。