「アライアンス」の考え方が、ポスト終身雇用の代案となるか
リンクトインの創業者、リード・ホフマンらが書いた『ALLIANCEアライアンス』を編集しながら、本書はこのようなポスト終身雇用時代の1つの解を提示していると感じました。本書でいう「アライアンス」という雇用形態は、企業と人が対等の対場に立つことが前提となります。そして両者で話し合って、お互いが必要とするものを探し出し、それに応じた職務と期間を「約束」することです。
ここでの「約束」は終身の雇用でもなく忠誠心でもありません。期待された仕事を提供することと、期待された成果を出すことです。この約束を交わすためには信頼関係が必要で、それは両者が守ることでさらに深まります。
このように仕事で築いた信頼関係は簡単には崩れないでしょう。本書でも、辞めた社員と会社との間の「終身信頼」関係が生まれることで、お互いが組織を超えたネットワークで結ばれることが示されています。
このアライアンスの仕組みは、いまの日本企業ですぐに導入するには超えるべき課題が多いです。それでも、この考え方から広がる発想の可能性は無視できません。
まず人と企業が対等な立場に立つためには、働く人は自分がやりたいことを明確にしなければなりません。どの組織がよさそうかではなく、自分が何をしたいのか。さしてそのためのスキルを持ち合わせているか。企業の側も、抱える事業への明確な方針や戦略が必要になります。なんとなく続けている事業に、明確な意思をもった人に働いてもらうことは難しいし、将来この事業をどうしていきたいかが問われます。人も企業も自らの意思を明確にするのは、厳しい一面もありますが、自分のやりたいことを声を大にして言える関係からは健全なサイクルも生まれるに違いありません。
もう一方で、企業の境界線がますます曖昧になると思われます。働く人の流動性が生まれ、かつ辞めていった社員とのネットワークがあれば、新しい事業を起こす際に、自社の社員のみで実施しようとする発想は希薄になります。事業のオーナーは企業であっても、それに従事するのはその企業の社員のみならず、多様な人が集まる。そんな人と企業と事業の関係が生まれるのではないでしょうか。
働く人も複数の企業の仕事を同時にやる場合も珍しくなくなります。事実、いまでも企業内で複数の仕事を掛け持ちしている人は存在します。人と人、あるいは人と企業が信頼関係のネットワークで結ばれれば、企業=事業=従業員という関係がもっと柔軟に変化するでしょう。
終身雇用という安定した仕組みがなくなる怖さはもちろんあります。しかし、事業環境の変化が来てもこの仕組みを守ろうとすることで若年層の雇用が犠牲になっている、という弊害も看過できません。『ALLIANCEアライアンス』で示された考え方は、すべてが働く人に優しいわけではありませんが、議論に値する仮説ではないでしょうか。読んでいただけた方に、感想を聞かせていただければ幸いです。(編集長・岩佐文夫)