彼らは社会の弱者か辺境者か
このバックグラウンドがまったく異なる3人の共通点は何か。それは言語でいまだ説明できないことへの飽くなき関心ではないかと感じました。藤田さんが「一生知りたいことを知ろうとしていたい」という欲求をお話しされましたが、それは極めて内発的動機で、「哲学者ではなく、哲学をやる」という言葉が印象的です。
谷澤さんは、「描いている時に考えているか考えていないかわからない」と言います。石川さんが「頭で勉強しようとすると疲れるが、感情を豊かにコントロールして勉強すると疲れない」と言えば、藤田さんは「頭と心は別。それを理解するのが禅」と続きます。理性と感性が行き来するダイアローグです。
圧巻だったのは、石川さんが「僕ら3人は社会の弱者なんです」とおっしゃった時に藤田さんが「僕は弱者という意識がないな」と素直に反応された場面です。聴衆を前に初対面の人を相手にして、違和感を表明する場面は、よからぬ空気が漂うものです。しかし、この言葉の応酬が会場全体の好奇心を掻き立てます。そこにある意見の違いは対立ではなく、まさに対話。続けて、藤田さんが「辺境ならわかる」と返し、石川さんの「歴史的に社会を動かしてきたのは、辺境にいた人たちなんです」という一言が生まれます。
最後は藤田さんが欲の構造についてお話しされました。物欲や栄誉欲などに代表される世俗的欲は、「所有」(have)の概念から生まれる。つまり「失う」ことへの恐れが生まれるから。「所有」ではなく「存在」(be)の概念に気がづくと、「受け取る」感覚(art of receiving)が生まれる。何かを受け取って存在している自分に気づく。頭で考えるだけでは生まれないであろう、言葉の数々をいただきました。(編集長・岩佐文夫)