ハーバード・ビジネス・レビューの最新号(9月号)の特集は、「稲盛和夫の経営論」。変革が求められるいま、日本人で真の企業家と言える稲盛氏を特集した。90分のインタビューでは、静かな時間の中で稲盛氏の力強い言葉が続いた。
静かだからこそ、伝わること
これまで多くの経営者の方にお会いしてきました。どの方も、それぞれ独特の雰囲気を醸し出しておられます。「経営者っぽい」雰囲気など存在しないのではないでしょうか。雄弁な方もいれば、寡黙な人もいる。即断即決の方もいれば、熟考される方もいる。営利目的の組織を率いるリーダーという役割でありながら、経営者の個性がまちまちなのは、「経営」という仕事に正解はないからでしょう。
「この方は、何も恐れていないのではないか」――。稲盛和夫氏がインタビューの部屋に入ってこられた時の第一印象はこれでした。初対面の挨拶が自然体、名刺交換の所作も自然体。相手に自分の第一印象をコントロールしようという意図がまったくありません。
人として人と接する態度をきちんとされる。これだけの実績を積み上げてこられた稲盛さんがこの単純な所作をされたことで、こちらの緊張感はいやおうなしに高まります。
本誌ハーバード・ビジネス・レビューでは、39年の歴史の中で今回初めて、日本の経営者を特集テーマにしました。既存の大企業が新しい事業の創造に苦戦しています。組織の構造転換も進んでいません。一方で、デジタルによる環境変化は刻々と進んでおり、既存事業の陳腐化がじわじわと進行しています。そんな時代に必要なのは「真の企業家」です。アイデアや勢いだけではなく、骨太のビジョンを持ち新たな事業へと挑戦する経営者です。
いまの日本でそのような経営者と言えば、稲盛和夫氏です。特集の企画を固め、京セラに協力を依頼したところ、稲盛さんへのインタビュー時間を90分いただくことができました。