「ピア・コーチング」とは、上司・部下間ではなくチームメンバー間で行うコーチングである。仲間同士で対話し自己変革を促し合う基盤をチームに築けば、さまざまなメリットがある。
誰しも、他者の助けを借りなければリーダーへと成長できない。
「ピア・コーチング」――リーダーと部下ではなく、同僚間でのコーチング――をうまく活用することで、新しいことを始める人に恐れを克服できるよう力と励ましを与えることができる。同僚がコーチ役を務めても、プロのコーチと同様に、「クライアント」(被支援者)が責任を持って新たな方向へと進むよう導くことができるのだ。
リーダーは、率いるチームのメンバー同士によるコーチングの基盤を築くことで、チームの学びを促進できる。私は数十年にわたり、ペンシルバニア大学ウォートン・スクールの講義やさまざまな組織でピア・コーチングの機会を提供してきた。最近ではムーク(MOOC:大規模公開オンライン講座)の一つであるコーセラでも、Better Leader, Richer Lifeと題した講座でこれを教えている。
本稿では、非指示的な、ソクラテス式(クライアントが対話を通じて問題の解決策を見出していく)に則ったピア・コーチングの基盤を築く手法を説明しよう。
これは、指示や評価、指導を伴うフィードバックによる方法(コーチング専門家がクライアントの問題を解決する時に用いる)とは対照的なものだ。共感と思いやりを込めた問い方を訓練し、効果的なやり方とそうでないやり方を検証すれば、誰でもコーチングの能力を身に付け伸ばすことができる。
もちろんリーダー自身は、部下同士でのコーチングを実現させたとしても、報酬や昇進に関する難しい人事判断をはじめ、その権限に伴う仕事の責任から解放されるわけではない。
しかし、人はコーチとして他者の境遇に好影響を与えれば、仲間意識が芽生え気分もよくなるものだ。そして同僚にコーチングを行う経験を通じて――そして言うまでもなく、同僚からコーチングを受けることによって――自分自身に関するさまざまな気づきを得ることができる。
チームにピア・コーチングの基盤を築くには、まず少人数から始めよう。3人気ずつのグループに分けるか、各人に他の2人を見つけてもらい、3人それぞれが互いにコーチとクライアントを務めるようにする。AがBをコーチし、BがCを、CがAをコーチするという具合だ。
最初に、各人の目標について話し合ってもらおう。目標をオープンに話せば、それだけ目標へのコミットメントが強くなり、達成の可能性も高まる。
3人がどのように協力し合うかを話し合うことも有効だ。ピア・コーチングに何を求めるかを明確にし、会う時間を決め、それぞれの関心、希望、懸念について理解を深め合う。
リーダーは、各メンバーがコーチとクライアントの役割をどう演じればよいかを明確にし、必要に応じて調整のアドバイスをしよう。各人の職場や家庭、コミュニティにおける主要な人間関係についても理解を共有してもらうとよい。
ただし、最も重要な基本原則は、「開示する内容は本人が決める」ことである。自分の情報をどの程度開示するかについては、各自のプライバシーと意向を尊重しなくてはならない。