1つのメインメッセージと
2つのサブメッセージを設定
第2回では、キャンペーン戦略のターゲットは定まり、ターゲットは地域に翻訳されたと書いた。
ボリスのポジティブキャンペーンのターゲットは、保守党やボリス支持層が多いアウターロンドンにおける、投票の意思が流動的なスイング層である。また、リビングストンのネガティブキャンペーンのターゲットは、労働党支持層が多いロンドン中心部における、リビングストン個人に多少なりとも猜疑心を持つ者である。

ボリスの「9ポイント・プラン」
実際のキャンペーンにおける最上位のメッセージは、「ボリス・ジョンソンの9ポイント・プランでロンドンをさらに前進させるか、もしくは、それを後退させるか」[2]と設定された。そのうえで、2つのサブメッセージが設定された。
サブメッセージの1つ目は、過去の実績を対比させながら、「ボリス・ジョンソンは2008年の選挙公約を実現した / ケン・リビングストンは公約破棄、とりまき政治、スキャンダル、無駄、偽善、ボブ・クロウ(筆者注:個人名。詳細は次回)のあらゆる点で信用できない」[3]である。
また2つ目として、将来の政策面について、「ボリス・ジョンソンには住民税を減税し、より多くの警察官を配備し、交通インフラに投資し、ロンドンの経済を成長させる9ポイント・プランがある / ケン・リビングストンは(彼の主張する)運賃値下げをできない、彼を養うお金はない」[4]というメッセージが打ち出された。
前回示したように、選挙戦での「良いメッセージ」の条件は4つある。
条件1:有権者にとっての選択を定義していること
条件2:感情に訴えるものであること
条件3:実績と将来を提示するものであること
条件4:適切なトピックを取り上げていること
上記のメッセージは、これらの条件を満たしているのだろうか。
まず、条件1の「選択を定義する」については、トップメッセージで「前進か後退か」というフレーミングがなされている。2つのサブメッセージについてもボリスとリビングストンが対比されており、そのいずれを選択するのかということが有権者に突きつけられている。
条件2の「感情に訴える」については、サブメッセージの1つ目で、信用(trust)という感情に則して、「ボリスは公約を果たしている一方で、リビングストンは信用できない」と訴えた。
条件3の「実績と将来を提示する」については、サブメッセージの1つ目が実績を提示しているのに対して、サブメッセージの2つ目は、将来の政策についてボリスとリビングストンを対比しながら示している。
では、条件4の「適切なトピックを取り上げている」かについてはどうだろう。陣営は独自の世論調査に基づいて、それが2つのキャンペーンのターゲットにとって適切なものであると検証していた。
次ページでは、条件4をいかに満たしているかについて、具体的に見ていこう。