「死んだ猫戦略」で窮地を脱する
このように、たとえ先手を取られても、その反論オペレーション(rebuttal)のスピードを速めて、対立陣営の攻撃による自陣営の傷を最小限にとどめ、さらに、みずからのオフェンスの時間を失わずに済ませる準備はできていた。
だがそれでも、お互いが知力を振り絞って戦うキャンペーンでは、対立陣営の発するメッセージが猛威をふるう時が必ずある。
対立陣営が発するメッセージがマスメディアで大きな反響を呼び、大きく取り上げられ、もはや手を付けられない。このままでは、長期にわたってマスメディアはこの話題でもちきりとなる。そうなれば、スイング層の有権者に対立陣営のメッセージが刷り込まれ、同時に、スイング層の有権者に自分たちのメッセージを届けられなくなる。
こうした事態の対策には、「死んだ猫戦略(dead cat strategy)」が有効である。
「死んだ猫戦略」とは何か。実は、ボリス・ジョンソンが、みずから書いた記事[1]でそれについて振れている。記事に登場する「オーストラリア人のすばらしいキャンペーン・ストラテジストの友人」とはまさしく、クロスビーのことであろう[2]。以下、ボリスの記事を翻訳(筆者拙訳)する。
「(いざという時には)死んだ猫をテーブルに投げ込むんだ。人々の集まるダイニングルームのテーブルに死んだ猫を投げ込んだ際に、まず間違いなく確実に起きることがある。憤ったり、驚いたり、吐き気を催したりする、ということが言いたいのではない。それも正しいだろうがここでは関係ない。重要なポイントは、その場で席についている誰もが、『うわっ、おい、死んだ猫だ!』と叫びだすということだ。言い換えれば、誰もがその猫について話し始めるということである。そう、それが猫を投げ込んだあなたにとっては、話してもらいたいことなのだ。そして、あなたを悩ませていた問題について、彼らは話をしなくなるのである」
すなわち、対立陣営の乾坤一擲の一撃がさく裂して、対立陣営のメッセージがメディアを通じて有権者に浸透し始めるその瞬間、より話題性の高い内容をアナウンスすることにより、そのメッセージをメディアからかき消してしまうのだ。
[2] ただし、クロスビー自身は公の場でこうした発言は一切していないと思われる。