異動やキャリアチェンジなどに伴い、新たな分野の専門知識を習得する必要に迫られた時、どうすればよいか。経験知・暗黙知の継承に関する第一人者、HBS名誉教授のドロシー・レナードが8つのステップを示す。
収入を上げたい、働く喜びをもっと感じたい、あるいは昇進の必須条件だから――。新たな分野の専門知識を身に付けようと決意する理由はさまざまだ。問題は、それをどうやって実現するかである。
目標はもちろん、その新たな分野における多様な局面で、問題を検証しチャンスを見極め、素早く賢明な意思決定ができるようになることだ。つまり求められるのは、私が「ディープ・スマート」と呼ぶもの――ビジネスに不可欠な、経験に根差した専門知識である。この種の経験知は、通常は何年もかけて苦労の末に身に付けていくものだ。とはいえ、新たな分野に行くには手遅れということではない。以下のステップに従えば、専門知識の獲得をスピードアップできる。
1.最良のお手本となる人を見つけ出す
新たな分野で自分がやりたいことに関して、最も優れている人は誰か。同僚や直接の上司から高い評価を得ている達人はどの人だろう。自分が見習いたいと思えるエキスパートは誰だろうか。
2.そのエキスパートと自分との差を見積もる
これには情け容赦のない自己評価が必要とされる。その人に追いつくために、どれほどの努力を要するだろうか。それを実行する心づもりはできているか。知識の差が比較的小さいことがわかれば、自信が持てる。相当の開きがあると判明した場合には、気持ちを落ち着けて、その差を埋める気概と覚悟はあるか考えてみよう。
3.自己研鑽に努める
特にエキスパートと自分の知識の差が大きい場合、それを縮めるには自分自身で何ができるかを考えてみよう。独学、見識のある同僚と話すこと、あるいはオンラインの学習コースも役立つかもしれない。
4.エキスパートに教えを請う
多くの熟練者は、知識の共有に快く応じてくれるはずである。特に、こちらが宿題をしっかり済ませ、基礎的な知識を習得しているのならその可能性は高い。しかしなかには難色を示す人もいるだろう。時間がない、自分の仕事を取られるのが怖い、など理由はさまざまだ。
相手の反応は、その人の性格と組織文化の両方に大きく左右される。説得力を高めるには、自分の学習に手を貸してくれれば本人にとってもメリットになることを強調するとよい。熟練者にとっては退屈だが自分には新鮮な、ルーチンのタスクを引き継ぐなどもよいだろう。熟練者が同じ組織にいる場合、人材育成への貢献に対して報酬があるかもしれない。必要な時間は最低限であることを強調し、ちょっとした隙間時間を見つけて質問しよう。