多忙による生産性の低下――つまり活動量と成果が比例していない状況に、どう対処すべきか。誰もが持つアクション・バイアス(とにかく行動しようという姿勢)を抑えることが有効だ。
自分は忙しいと感じている人は、手を挙げてほしい。その忙しさによって、むしろ生産性に支障が出ているという人はいるだろうか。ならばこの先を読み進めてほしい。
人はいとも簡単に、「忙しくしていたい」という誘惑に屈してしまう。たとえそれが生産性を下げることになってもである。私たちの脳がそのようにできているのだ。しかし生来のその性質を、成果へと転換できる方策がある。
諸研究を見ると、私たちがしばしば忙しいと感じる(しかし生産的だとは必ずしも感じられない)理由が2つある。どちらも、みずからが招いているものだ。
●人は何もしていない状態を嫌う
あなたの周囲にも、車の運転で数分間の信号待ちを避けるために、もっと時間がかかると知りつつ回り道を選ぶ人がいるはずだ。研究によれば、同じことが仕事にも当てはまるという。つまり、私たちが選んでいる行動の多くは、自分自身を暇にさせないための手段にすぎないのだ(英語論文)。
●人はアクション・バイアス(行動ありきの姿勢)を持つ
私たちは不確実性の高い状況や問題に直面すると、何か行動を起こそうとする。たとえそれが逆効果であり、何もしないことが最善の策であったとしてもである。
プロサッカーのゴールキーパーの場合を考えてみよう。ペナルティーキックでボールを止めるのに最も効果的な戦略は何だろうか。ほとんどの人は、自分なら右か左にジャンプするだろうと考える。だが最善の策は、中央に留まることなのだ。イスラエルの研究者らの調査によれば、右に飛んだキーパーがボールを止める確率は12.6%で、左に飛んだ場合は少しだけましな14.2%だった。一方、中央にいたキーパーがボールを止める確率は最も高く、33.3%であった(英語論文。世界各地のトップリーグに所属するキーパーを対象に286本のPKを分析)。
ところが、キーパーが中央に留まる頻度はわずか6.3%なのだ。どうしてだろうか。それは、反対の方向にダイブ(という行動)をしてボールを止められなかったほうが、動かずにいてボールが通り過ぎるのを横目で見ている屈辱と比べたら、まだ格好がつくし、気持ちも楽だからだ。アクション・バイアスはたいていの場合、「何をすべきかわかっていなくても、何か行動すべきだ」という感覚に基づく感情面の反応である。しかし行動を控え、観察し、状況を見極めるほうが良い選択となることは多い。