2. 一意専心
ファーウェイでは、たゆまぬ努力によって初めてチャンスをつかめるということが強調されている。創業初期の数年間は、すべての新入社員に毛布とマットレスが支給されていた。夜遅くまで働いて職場で眠り、翌日の昼食後にも仮眠をとるような者が多かったからだ。ある従業員はこう語った。「かつてマットレスは、努力を象徴するものでした。いまでは、あらゆることにベストを尽くし献身する精神が共有されています」
従業員の献身が企業の競争力を高めるという考えは、容易に理解できる。しかし実際に献身を促し、それを従業員に受け入れてもらうことは難題である。その1つの方法としてファーウェイは、業績インセンティブ制度を活用している。同社は株式公開企業ではなく、その所有者は実質的に従業員たちだ。任正非が株式の約1.4%を保有し、8万2471人の従業員が残りを保有する(2014年度アニュアル・レポートによる)。
この従業員持株制度は、ファーウェイ社内で「銀の手錠」と言われている。これは俗に「金の手錠」と呼ばれ、優秀な社員を金銭でつなぎ留めるための一般的なストック・オプション制度とは異なる。根本にあるのは、責任と恩恵の両方をともに働く人々と分かち合いたいという任正非の想いだ。全員にリーダーとして行動してほしいのだと彼は言う。ただし重要なのは、優れた働きを見せるものだけが参加を許されるということだ。
ファーウェイでは、IPO(新規株式公開)をすればほんの一握りが大儲けし、大多数はモチベーションを失う結果になるという共通認識がある。株式公開せずに現行の持株制度を守ることは、強固な団結心と士気の維持につながるのだと任正非は強調する。
3.長期の視点で考える
ファーウェイの従業員持株制度は、献身的な従業員を惹きつけ、つなぎ留めるのに役立つだけでなく、長期的な視野に立った計画立案をも可能としている。そしてそれが、全員が目標と長期的ビジョンに忠実でいられる理由でもあると任正非は言う。
ファーウェイは自社の発展計画を10年単位で策定しているが、エリクソンやモトローラなど競合他社のほとんどは四半期や年度単位が通常だ。資本市場の短期的な変動に対応しようとあくせくする競合他社を尻目に、ファーウェイは未公開企業であるがゆえに10年計画に取り組める。
ファーウェイはCEO輪番制度を導入しており、3人の副会長が6ヵ月ごとに交代でCEOを務める。任正非は監督の役割を維持し、CEOのメンター兼コーチとなる。この画期的なマネジメント体制は、リーダーシップの新たなあり方を論じた書籍Flight of the Buffalo(ジェームズ・ベラスコ、ラルフ・ステイヤーの共著)に触発されて生まれたという。
たしかに輪番制であれば、1人のリーダーが失敗や脱線をしても会社への傷は小さくて済むだろう。株式公開企業であれば、このような異色の体制でうまくやっていけるとは考えにくい。
4.慎重な意思決定
任正非は、即断を避け、時間をかけて熟考する人物として知られる。その傾向は組織にも反映されており、従業員持株制度がここにも寄与しているという。
意思決定の権限は、外部の投資家に渡ることなく社内に保持されており、ファーウェイは次の打ち手を検討するうえで市場の圧力をそれほど受けず、かなり自由でいられる。CEO輪番制度も、より漸進的で民主的な意思決定プロセスに寄与している。それだけはなく、輪番制のおかげで任正非は最終的な後継者の決定に時間をかけられる。
ファーウェイはまた、思考力の大切さを強調している。最も価値があるのは考える力である、というのが同社の理念だ。知の交換が日常的に起こるようさまざまな努力が行われている。たとえば幹部たちには、自分の専門ではない分野の本を読むこと、それらの本をオフィスに置くことが求められている。また上級幹部たちと任正非の考えは、全従業員に頻繁に伝えられる。重要なのは、それらの考えを向上させるためのフィードバックが、全社的に奨励されていることだ。これは、かつては中国の一企業であった同社が国際性を備えたことの表れであり、最終的に同社の将来展望に反映されるはずである。
よく知られていることだが、任正非は中国人民解放軍にいた経歴を持つ。軍の経験のおかげで、戦い生き抜く気持ちの強さが形成されたと彼は言う。創業初期に彼が好んでいたスローガンの1つにも、その資質が反映されている。「成功すれば皆で心ゆくまで祝杯を挙げよう。失敗すれば仲間を助けるために死力を尽くそう」。これまでのところ、ファーウェイは祝うべき成功を数多く収めている。
HBR.ORG原文:Huawei’s Culture Is the Key to Its Success June 11, 2015