圧倒的な才能が、利益を生み出す時代に
映画など、商品価値が定量化しにくい商品は「出してみないと売れるかどうかわからない」カテゴリーの代表であろう。そのためリスクマネジメントの観点から、多くの商品を出す分散効果から、リスクを抑え商品全体のポートフォリオ全体の利益最大化を目指す。この戦略が王道と思われる。
対するブロックバスター戦略では、「売れる」と見込んだ商品にとことんお金をつぎ込み、リスクを大きくしながらリターンを目指す。多くのデータから、均等にお金をつぎ込むよりも、集中投下した方が、1タイトル毎のバラつきはあっても最終的に全体の利益は大きくなることが示されている。「集中と選択」の議論と同じ原理だが、映画や音楽といった主観的価値の高い商品群での話しであることは興味が尽きない。
この戦略を支えるのは、「どの商品が売れるか」の目利き力に他ならないが、昨今のビッグデータ解析とアルゴリズムの発展により、映画の事前予測の精度は相当高まっていると聞く。主観的な価値観や人の感情もトレンドが見えるようになってきたからだ。一方で、それを生み出すクリエイターや出演者といったスターの存在がさらに大きな価値をもたらす時代の到来であることが伺い知れる。
ITが製造技術にまで進出したことから、製品本来がもつ機能的価値は相対的に差別化しにくい要因となってきた。仕事の自動化はあらゆるものをコモディティ化していくことから、オペレーションの卓越性や、コスト優位性での勝負は熾烈を極める競争となっている。その中での競争優位を築く要因は、人、すなわちタレントの力である。
IT業界での技術者不足はますます高まっているが、あるスタートアップ企業の経営者は「ほしいのはエンジニア100人ではなく、ひとりの天才的エンジニアだ」と言っていた。圧倒的な技術を持つエンジニアがいないと、システムは構築できても、差別化できるシステムにならないと言う。
ブロックバスター戦略の事例として本書では、先のエンターテインメント業界が中心で、さらにファッション業界やサービス業界への展開にも触れられている。これらも趣向性の高い市場だが、その本質は、タレントの力がビジネスの競争優位に直結する時代への潮流が読み取れる。
人が生み出す価値の意味がさらに大きくなる時代。『ブロックバスター戦略』は、単に嗜好性の高い業界での戦略と読み飛ばすのではなく、卓越した人材への投資が競争優位につながる次世代のビジネスモデルとして読むべきだろう。