機械が人間の仕事を奪うのではないか。昨今のIT技術の進化が新たな脅威論を生んでいる。しかし、それは人間を過小評価しているからだと著者は言う。人ができない本当の仕事とは何か。
優れたシステムが、優れた人材を作る
米「フォーチュン」誌編集主幹でジャーナリスト、ジョフ・コルヴァンの新著『人間は過小評価されている』は、ベストセラーとなった前作『究極の鍛錬』(2010年、サンマーク出版)(原題:才能は過大評価されている)の続編だ。
この2つの考えは相容れないように見えるが、実はそうでもない。『究極の鍛錬』の要点は、才能のある人が成功を収めるのは常になんらかのシステムのもとであって、それを離れて才能を評価するのは難しいということだ。
その結果、成功したスターは、本人の力以上の評価を獲得することが多い(この点は、ハーバード・ビジネススクールのボリス・グロイスバーグ教授の研究で裏付けられている。教授は見事な業績を上げるスター・プレーヤーが別の企業に転職すると好業績を上げられなくなる現象を指摘した)。
実際、優れたシステムによって優秀な人材が作られることは少なくない。最高のシステムは「普通」レベルのプレーヤーが、「優秀」な結果を出すことを可能にする。企業としてそのようなシステムを構築できるなら、大金をかけて他社の花形を引き抜いたり、少数のエリートが報酬を独り占めするような制度を容認したりする理由はない。
人間の特質に基づく仕事
続編となる新著で、コルヴァンは優れた企業システムとは、単なる資本投下の仕組みに留まらないことを強調している。それは人間のユニークな能力に大きく依存する人的システムだ。
人間の才能は過大評価されているどころか、実に貴重なものである。それは、かつて人間が行ってきた多くの仕事をスマートマシンが引き継ぐ時代にあって、声を大にして主張すべき重要な真実だ。
コルヴァンの主な論点は、人間には感情移入やストーリーを語る力といったきわめて独自性の強い能力があり、それゆえにたいていの仕事の中身が機械化されていっても、人間を雇い続けなくてはならない、ということだ。
さらに、機械が人間の能力に匹敵あるいは上回る分野でも、特定の仕事や判断は人間の管理下に置かれることになるとも述べている。
たとえば人は、人間でないものに法廷で裁かれることには耐えられないだろう。また病気の診断を告げたり、芝居やコントなど娯楽を提供したりする相手は、人間の資質を共有する存在であってほしいだろう。ただし、これは経験的な裏付けをもとに主張しているわけではなく、単なる予測と言っていい。