自動運転がもたらす自動車産業の未来
――自動運転の普及によって自動車との付き合い方はどのように変化していくのでしょうか。
おそらく、多くの人がクルマを所有しなくなると考えています。必要な時に呼べば、無人のクルマがやってきて、目的地に着いたら、次の利用者のところに行く。こんな無人タクシーを利用することが一般的になると思います。音楽の楽しみ方でいえば、CDやレコードを所有することから、ストリーミングサービスに変わってきたようなものです。ストリーミングサービスを利用すれば、音楽を所有していなくても、クラウド上にある何百万という曲の中から好きな音楽を、好きなときに、好きなところで呼び出して聴くことができるからです。
同様にクルマの所有をやめれば、駐車場や車検、保険などのコストが不要になります。また、自動運転になれば、人をはねたり、ものにぶつかったりするリスクからも解放されます。無人タクシーの料金に関しては、運転手の人件費が不要なので、運転手付きのタクシーの3分の1以下に収まると予測されます。
――自動車産業にも大きな影響を与えそうですね。
ITの世界で起こっているような垂直統合が起こってくると思います。たとえば、かつてアマゾンは書店、グーグルは検索サービス、アップルはハードウェア、マイクロソフトはソフトウェアのメーカーといった具合に、それぞれ別の場所ですみ分けしていました。ところが、最近は、アップルがアップストアの運営、アプリケーションの開発などを手掛けるようになり、アマゾンはキンドル、グーグルはネクサス、マイクロソフトはサーフェスなど、それぞれハードウェアを出すようになりました。
これまで別の階層で暮らしていた企業が、他社が活躍する階層にどんどん進出しているのです。そして、自分が得意とする分野は有料にして、相手の稼ぎの源泉を低価格、もしくは無料にするといった戦いが始まっています。アップルはハードで儲ける会社なので、OSをアップデートする時は全部無料にして、逆にマイクロソフトやグーグルは性能の割に価格が安いハードを出しています。
クルマでも同様に、自動運転のソフトからハードの製造まで統合した動きが出てくると予想されます。たとえばグーグルは、トヨタと同じくらいのキャッシュを持っているので、必要に応じて自動車メーカーの買収も可能です。
重要なのは、自分たちはここでこう儲け、パートナーはあそこで儲けて、ライバルには儲けさせないというビジネスモデルをどう設計するかです。たとえば、クルマというハードを高く売りたいなら、情報提供はすべて無料にしてハードだけで儲けるといったビジネスモデルをつくる必要があるし、無人タクシーとして普及させたいならば、ハードは無料で情報は有料といったビジネスモデルを組み立てるというわけです。