そもそもマーケティングのミッションとは

 ワールドマーケティングサミットでの講演でコトラーは、「マーケティングのミッションは人々の生活を豊かにすること」と話されました。そして「資本主義は大量の製品・サービスを安価に生産し供給する優れた仕組みである」とも言います。しかし、その仕組みが万能ではないことは明らかで、コトラーは本書でそれらを14の課題としてまとめているわけです。

 では、資本主義の未来を考えることが、自社のマーケティング活動にどのようなプラスをもたらすのか。利己的に自社の事業を捉えるとその答えはすぐに見つかりません。しかし、資本主義の綻びが明らかになっている現在、この問題に目をつぶって経済の供給活動はできません。コトラーは本書で、企業や経営者が個別最適の利益を追求してしまうインセンティブとして、ガバナンスの問題にも言及していますが、これらはいまや避けて通れない企業課題であることは間違いありません。

 マーケティングのミッションが「人々の生活を豊かにすること」であるならば、本書が提示している資本主義の課題を考えることは、マーケティングの原点そのものです。本書は、稀代のマーケティング学者が、自身の根本的な問題意識を表した一冊と言えます。(編集長・岩佐文夫)