経済面での普及という課題

  IIoTはグローバルレベルで経済成長を加速しうるという楽観的な見方は、広まりつつあります。

  しかしながら、成長への見通しは各国レベルになるとそう確かなものではありません。新たなテクノロジーの経済的な潜在性を活かすことに、もともと長けた国とそうではない国があるためです。

   19世紀末から20世紀初頭にかけて起こった工業先進国における電力化は、その好例でしょう。電力化という名のレースにおいて、多くの国々は技術的に同じスタートラインに立っていたにもかかわらず、トップでゴールしたのは米国でした(図2を参照)。なぜでしょうか。それは米国が新たなテクノロジーを他国より迅速により広く企業や社会に普及させ、新技術を活かせる生産構造や組織構造への転換を図ったからです。

  例として工場の電力化を挙げます。電力化以前、工場の作業員は各部門から必要な部品を集めてきて固定の作業場所まで運び、そこで製品へと組み立てるのが一般的でした。しかし、電力化はこのプロセスを一新しました。作業員は電動式の組み立てラインに立ち、製品がライン上を移動する仕組みへと変わったのです。このイノベーションは人件費を大幅に削減し、作業の標準化も促しました。1920年代には、エンジニアの参画および作業員の再教育により100%電力化された工場による生産体制を導入しました5。それから数十年を経て、電力は産業用のみならず消費者市場まで拡大。1950年代には米国家庭の94%に電気が通り、家電製品の需要が著しく増大しました6

  電力の経済的な潜在性を活かす力を有していた米国の事例は、電力の技術面での普及と経済面での普及が別の課題であることを如実に示しています。技術面での普及に必要なのは、技術を導入するという比較的限られたプロセスです。しかし経済面で普及させるには、より複雑なプロセスが求められます。経済面での普及には技術面での普及のみならず、さまざまなセクターや業界をまたがっての成長やイノベーション、経済的メリットの実現を推し進めることが求められます。米国はその起業家精神と大量消費文化を活かし、景気を追い風として、電力化を急速に全国展開しました。その過程において、消費者と企業と政府の日常的な役割をも一新しました。

  IIoT には電力に匹敵する革新性が備わっているとアクセンチュアは考えています。しかし、IIoT がもたらしうるすべてのメリットを享受するには、各国はまずIIoT の経済面での普及を実現する適切な環境を構築しなければなりません。

出典

5. David, Paul A, The Dynamo and the Computer: An Historical Perspective on the Modern Productivity Paradox. The American Economic Review, May 1990, Vol 80, No 2, Papers and Proceedings of the Hundred and Second Annual Meeting of the American Economic Association.

6. Lebergott, Stanley, 1993, Pursuing happiness: American consumers in the twentieth century, Princeton University Press, USA.

クリックで拡大