経済面での普及を推進するには

  以上の歴史的教訓から、一つの事実を導き出すことができます。つまり経済面で普及できるか否かは、国がイノベーションを経済と社会に十分に定着させ、吸収できるかどうかにかかっているのです。

ということは、このプロセス、すなわち「各国の吸収能力(NAC)」を支える構成要素が何であるかを理解することが、IIoTの経済的な潜在性を活かす第一歩につながります。

   過去の技術革命に関するリサーチや、テクノロジー、経済、およびビジネス分野の専門家へのインタビューをもとに、アクセンチュアはNACの基礎となる4本の柱を特定しました。IIoTの経済面での普及がもたらす影響およびメリットは、これら4本の柱の相対的な強度によって異なるはずです。

■ビジネス・コモンズ(ビジネス上不可欠な要素)

  ビジネス・コモンズは、企業がビジネスを営むうえで必要なビジネス環境や資源プールの総称です7。健全なビジネス・コモンズは、知識を持った労働力と信頼性の高い金融システム、堅牢なローカルサプライヤー/ディストリビューターのネットワークによって構成され、その全体が適切な政策と法律によって統制されています。

   現代においては、堅牢な通信/インターネット・インフラがビジネス・コモンズという柱の強度を決める大きな要因となります。通信/インターネット・インフラが、ビジネス・コモンズのさまざまな構成要素を結びつける役割を果たすからです。アクセンチュアの調査に参加した経営幹部も、脆弱なICTインフラと資本へのアクセスが限定されることが、自国内におけるIIoTの発展を阻害する最大の障壁であると指摘しています。ビジネス・コモンズが弱い国でも、ほかの柱でその強度を補うことは可能かもしれません。しかし多くの場合、強固なビジネス・コモンズの構築とIIoT関連技術インフラへの投資、そして企業に優しい政策の導入が、IIoTの経済面での普及に向けたカギを握ります。

■テイクオフ・ファクター(発展に必要な要素)

  テイクオフ・ファクターは、新たな技術がニッチ市場の限られた層によって採用される初期段階から、実用的な製品/サービスの一般への普及への移行を後押しします。テクノロジー基盤が確立され、結果起業家や大企業、消費者が新技術を利用するようになり、それによってさらなるイノベーションと規模の拡大が加速される仕組みです。

   たとえば、電力インフラの普及はラジオやテレビの発明につながり、各国経済の発展を促して電力の経済面での普及を後押ししました。IIoTの場合は、ハイテク企業の存在やSTEM(科学・技術・工学・数学)分野の労働力、R&D分野への政府のサポートなどの要素が供給側の発展を促します。需要側では、都市化や中流階級の拡大がIIoT関連製品/サービスのニーズを高めるでしょう。

   これらの要素が組み合わさることで、コネクテッド・デバイスが消費者の間に普及し、ハイテク企業はニーズの高まりに合わせて、製品やサービスの開発をさらに推し進めます。IIoTは既存の通信インフラを活用できるので、このプロセスはますます加速化するでしょう。IIoTの85%がレガシーインフラを利用できるとの報告もあります8