■トランスファー・ファクター(伝達に必要な要素)

  トランスファー・ファクターは、テクノロジーをより深く経済に浸透させ、企業と消費者と社会の行動に一層大きな変化をもたらす後押しをします。この段階までくると、テクノロジーそのものの変化よりも、テクノロジーを契機とする組織的/社会的な転換が重要になってきます。たとえばインターネットは過去20年間で経済面での普及を実現し、電子メールやファイル共有といった限られた用途から、ビジネスと消費者の生活に不可欠なものへと変化を遂げています。

   トランスファー・ファクターには、知識の伝達のほか、新技術の利用を可能にする社会規範および社内規範の見直しも含まれます。何が要因となるかは、地域によっても異なります。たとえば調査の結果では、欧州企業は米国企業に比べてICTの普及によって得られるメリットが非常に小さいことがわかっています。欧州企業は組織構造や経営スタイルを見直して、イノベーションを即座に活用することができないのです9。こうしたことから、IIoTを適切に導入できるか否かによって、一国の産業競争力はより広範な影響を受けるのではないかと考えられます。

■イノベーション・ダイナモ(イノベーションの原動力)

  イノベーション・ダイナモとは、テクノロジーによる自律的な革新や開発が起こることを指します。これによりテクノロジーが普及し、さらに他の領域における技術革新と結び付くことで、かつては想像もできなかった補完的な製品やサービスが誕生し、相乗効果が現れる仕組みです。たとえば、エレクトロニクスは現代のコンピューティングを生み、コンピューティングは通信技術と結びつくことで、今日のインターネットおよびIIoTへとつながっています。国の研究体制やテクノロジー・クラスターの存在、健全な起業家精神などが、イノベーション・ダイナモの構成要素の一部です。メイカーズ精神(3Dプリンターなど、テクノロジーを活用してブレークスルーを起こそうとするDIY精神)も、成熟したIIoT経済の大きな要素となるでしょう。現在、メイカーズたちは独自のアプローチでIIoTを利用し、イノベーションを市場に投入することによって、世界経済に貢献しています。

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出典

7 . The Strategic Context: What we should have been worried about before the Great Recession: An interview with Michael W. Porter and Jan W. Rivkin, Harvard Magazine, September— October, 2012.

8. Higginbotham, Stacey, Intel launches an Internet of things division that will rival its data center and software group, November 6, 2013.

9 . Miller, Ben and Atkinson, Robert D, Raising European Productivity Growth Through ICT, June 2, 2014. Van Rennen, John, et al, The Economic Impact of ICT, SMART N. 2007/0020, January 2010.