知り得た情報を元に、企業はどこまで正直に顧客と向き合うか

 たとえばフィットネスジムです。月額の会員制を採用しているところが多いですが、ひと月何回使用しても一律料金。顧客は会員になれば、行きたいときに何度でも使用するメリットがあります。そして毎回料金を支払うより格安になるメリットがあるとともに、企業は安定収入を得られます。このような会員制ビジネスでは、休眠会員、つまり会員でありながらほとんどサービスを使用しない会員が企業にとって最も収益が上がることになります。

 月額300円程度の会員サイトなど、見なくなっても解約するのが面倒で休眠会員のままである、という支出はだれしも1つや2つは心当たりがあるのではないでしょうか。ある情報提供サイトでは、この休眠会員だけの収入が月に数千万円あると聞きます。

 企業がこれだけ詳細なデータが取れる時代、どの会員が自社サービスを頻繁に利用していて、どの顧客が休眠状態かは一目瞭然です。

 ここで悩ましいのは、休眠会員に「使用状況を見ると、退会された方がよろしいのではないでしょうか」と情報提供するかどうかです。この話しをすると、ほとんどの人が「そんなの商売だから、企業は自分から言わなくていい」と言われます。確かに、商売倫理や契約に違反した行為ではありません。しかし、今後、消費者から見れば「企業は知っているはず」というのが自明になります。「知っていて言わない」ことが消費者から見て、「顧客主義と言っても、企業の論理ね」と見透かされる傾向は強まるでしょう。情報の透明化は企業の論理と消費者の論理の乖離が、乖離のまま放置できない状況をもたらします。

 ある損害保険会社では、割引制度があるのにそれを使用していないで割高の保険料を支払う顧客に連絡し、同じ条件で安い料金プランがあることを告げたそうです。その結果、多くの顧客が割安プランに切り替え保険料収入は一時的に下がりましたが、顧客満足度は上がり、一年後の継続率は100%に近いほど、劇的に改善しました。正直さを武器に顧客との関係性を築いたのです。

 これは企業観の問題かもしれません。あるいは人と人との取引に関する世界観の問題かもしれません。使用データが取れることで、あらたなジレンマとともに、あらたなサービスの可能性も開けるのです。(編集長・岩佐文夫)