経営者の素養を持ったCMOの存在が不可欠

――「下請け的マーケティング」を脱し、マーケティングの仕組みを新たに構築するには何が必要ですか。

  マーケティングにマネジメントの視点が必要です。さらに、マーケティングを仕組みとして機能させ、運用していくにはCMO(最高マーケティング責任者)の存在が不可欠です。CMOは、ひと言でいうと「マーケティングを企業の競争力に結びつける責任者」であり、全社を巻き込んで顧客価値の創造と実現を担うことになります。

  経営戦略においてマーケティングの要素がますます重要になっていくなかで、欧米では多くの企業がCMOのポジションを置いています。CMOの立場は、単なるマーケティング部門のヘッドに留まりません。マーケティング=顧客価値創造の視点から、各事業部門や各ブランドにものが言える立場にありますから、経営者としての素養が必要になりますし、欧米企業では、CEO(最高経営責任者)のキャリアパスの一つとして注目されています。

  日本でもようやくCMOの重要性が認知されてきたところで、大企業を中心に導入が始まっています。マーケティング担当役員をCMOと呼んでいいのかどうかは議論が分かれるところですが、マーケティングの司令塔がだれなのか明確にすることは重要です。マーケティングを軽視してきたに日本企業において、CMO人材は圧倒的に不足していますから、CEOがバックアップしながら意識的に育てていく必要もあるでしょう。

――デジタル・マーケティングという言葉を耳にする機会が増えました。マーケティング部門とIT部門の連携は進んでいますか。

  海外では、CMOとCIO(最高情報責任者)の連携がここ数年、ホットな話題となっていますが、あまりにもカルチャーが違いすぎて、半ばあきらめている様子も伺えます。

  企業のIT部門はどちらかというと、基幹業務に関わるITインフラの構築に携わってきました。一方、市場に近いところのIT、顧客の行動を分析するための戦略的なITはデジタルと呼ばれ、これについてだれが責任を負うのか、企業のなかでも空白地帯となっているのが現状です。マーケティングに限っていえば、デジタル・マーケティングという部門は珍しくなくなってきました。しかしながら、IT部門はインフラをつくるだけ。マーケティング部門は従来型の4マス媒体を使ってマーケティングを行うのに長けた人がトップにいて、デジタル・マーケティングは、マーケティング部門のなかにありながら、ある意味、孤立しかけています。全体を見る人はだれもいません。

  すでに顧客はデジタル武装しています。何かあるとスマホやネットで調べる行動パターンができていて、企業がメッセージを発信しなくても検索してくれます。そう考えると、顧客価値を理解するのにデジタルは最も重要な要素になっているにもかかわらず、これに対応できる人材が見当たりません。ITとマーケティングの両方について考えられる人材の育成が急務といえます。