技術背景を理解し、ビジネスモデルを考える社会科学人材が重要に
――空白を埋めるために、必要なことはなんでしょうか。

IoT、ビッグデータ、人工知能、ロボットといったデジタル技術の発展は、既存のビジネスモデルを破壊し、新しくつくり変えてしまうようなインパクトがあります。身近な例では、配車サービスのウーバーがタクシー業界の構図を変えてしまうともいわれています。シリコンバレーのベンチャー企業ではなく、タクシー会社のような伝統的な企業でも、今後はデジタルとマーケティングの融合を図り、デジタルトランスフォーメーションしていかないと生き残っていくことは難しいかもしれません。
民泊の問題が取りざたされるホテル業界、自動運転技術の開発が進む自動車業界、保険業界など、あらゆる業界で今後、デジタルディスラプティブ(デジタル技術によって既存の価値観やビジネス構造が破壊されること)が起こってくるでしょう。家電業界を例にとると、テレビやエアコン、冷蔵庫といった個々の家電の性能より、それらをすべて統合するようなIoTデバイスのほうが重要になってくると、日本の家電メーカーはネットワークの要素となる部品をつくるだけの下請け産業に成り下がるかもしれません。
では、どうすればよいのか。社会科学の立場から言わせてもらうと、技術も必要だが、顧客や社会に価値を提供する部分まで理解する、社会科学的要素、人文科学的要素がますます重要になってくるのではないでしょうか。企業のなかでマーケティングとITが分かれているかのごとく、日本のアカデミズムも理工学系と社会科学系が分断されているところがあります。社会と技術の間の距離がこれほど近いものになった今日、人工的につくられた理系人材、文系人材と人材像が強すぎるのは、大きな障害になるのではないでしょうか。基本はどちらかに軸足を置いてもいいのですが、両者にまたがる融合型の人材の育成を本気で考えないと、デジタルディスラプティブの時代における日本の将来は危ういように思います。
――伝統的な日本企業がデジタル技術を取り込む際に、ベンチャー企業など外部との連携も重要だとする声もありますが。
自社だけでイノベーションを起こすのは難しいとして、オープン・イノベーションに走る企業が多くありますが、意外にうまくいっていないようです。たとえば、やり始めて、ある時点になって知的財産権などの問題から、そこで足踏みしているケースが多く見られます。社外に行く前に、むしろ社内がつながっていないことが問題です。必要な情報や能力は社内に存在するにもかかわらず、不必要に社外に向かっている気がします。確かに、オープン・イノベーションは重要で必要なものですが、それだけで課題を解決しようとするのは現実的ではありません。まずは、社内がつながるマーケティングの仕組みをつくるべきです。
(構成/堀田栄治 撮影/三浦康史)