米労働市場では1980年から現在まで一貫して、あるスキルを要する職業の数が増え続けているという。それは「他者とうまく協働する能力」だ。テクノロジーの進化と働き方の未来を考えるうえで、協調性や社会的知性を含むこの「ソーシャルスキル」はますます重要となる。

 

 2013年、ある論文の発表を機に、仕事の自動化に対する不安がいっそう高まった。執筆者であるオックスフォード大学マーティン・スクールのカール・ベネディクト・フライとマイケル・A・オズボーンの予測によれば、今後20年間で米国の職業の47%が、コンピュータに取って代わられるおそれがあるという(英語論文)。機械化によって人間の仕事がどれほど奪われるか、いまだに確たる結論は下されていない。しかし、人工知能とディープラーニング技術の急速な進歩を鑑みれば、職業が消えゆく未来への不安は募るばかりだ。

 かつて人間にしか任せられないと思われた複雑な仕事をますます機械がやるようになると、考えざるを得ないのが「人間にはどんな職業が残されるのか」という問題だ。

 全米経済研究所(NBER)が最近発表した調査報告によると、自動化が非常に難しいのは、高いソーシャルスキル――報告書の定義によれば、「他者と協働する能力」――を問われる職業だという(英語報告書)。「労働市場で重要性を増すソーシャルスキル」と題されたこの報告によると、1980年以降に増加した雇用のほとんどは、比較的高いソーシャルスキルを必要とする職業である。そして、高度な技術を伴い自動化の難しい職業では、ソーシャルスキルに長けた人材の需要がますます高まるという。

 しかしそれは、分析能力の重要性が低下することを意味するわけではない。報告書を書いたハーバード大学教育大学院准教授のデイビッド・デミングは、「1980年代以降、雇用の増加と賃金の上昇が最も顕著なのは、高い認知能力とソーシャルスキルの両方が必要とされる職業だ」と説明している。

 彼が主に参考にしたのは、まずマサチューセッツ工科大学の経済学者デイビッド・オーターによる、テクノロジーの変化が米労働市場に与えてきた影響に関する研究だ。そしてシカゴ大学の経済学者ジェームズ・ヘックマンによる、非認知的能力(ソフト面のスキル)の重要性に関する研究。さらに、労働市場で「数字と協働能力の両方に秀でた人」の報酬が増えていったことを示す、少し古い諸研究もふまえている。

 驚くべきことに、「高度な数学の能力が問われるが、他者との交流をあまり必要としない職業」が米労働市場に占める割合は、過去30年間で減少している(下図参照)。つまり、数学が得意なことは今日の労働市場では無駄にならないものの、それだけでは不十分なケースが多いのだ。デミングは私にこう語った。「1人でコツコツと数学的な課題に取り組んで高給を得られる、という時代は終わりつつあります。数学的能力とソーシャルスキル、両方が必要なのです」

 この報告書では、重要性を増すソーシャルスキルに関して次の3点が説明されている。1.グラフに表れているように、ソーシャルスキルはあらゆる賃金レベルの職業において高評価される。2.ソーシャルスキルと認知能力は相互補完的な関係にある。3.ソーシャルスキルをさほど必要としない職業は、ルーチンワークであることが多く(オフィスでのファイリングや工場での仕事)、自動化される可能性が高い。

 デミングは仕事内容の変化を検証するために、米労働省が提供する職種情報ネットワーク(O*NET)にある聞き取り調査のデータを使った。そしてそれを基に、ソーシャルスキルの必要性を測る基準を設けた。各職業において、どれほど社会性が求められるか、他者との交渉や調整、説得といった作業がどの程度必要となるかを表す基準だ。さらに、同様の基準をルーチンワーク、数学的な業務、サービス業務の必要性についても設け、職業をこれら4つのカテゴリーに大別した。

 データによると、ソーシャルスキルを必要とする業務は1980年から2012年の間で24%増加したのに対し、数学的な業務は11%しか増えなかった。2000年以降は数学的な業務は減少している一方、ソーシャルスキルの重要性は2%増加している。そしてルーチンワークに分類される職業は減り続けている。