デミングはモデルの有効性を検証するために、1979年から現在まで継続されている全米青少年縦断調査(NLSY79)のデータを参照した。このアンケート調査は、回答者を若年期から50代半ばになるまで追跡し、試験の点数、高校でのスポーツやクラブ活動への参加(のちの労働市場におけるソーシャルスキルの判断材料になる)、成人後の雇用と所得などを記録してきた。デミングはこれらのデータを基に、(自己申告による)ソーシャルスキルが高い人と低い人との所得差を、さまざまな職業について測定した。
すると、ソーシャルスキルの高い人は、低い人よりも所得が高いことが判明した。これは学歴、認知能力(標準得点で測定)、職業などの諸要素を調整したうえでの結果だ。ソーシャルスキルは労働市場において、報酬面でプラスとなり、その効果は他者との関わりが必要とされる職業ほど大きくなるようだ。
この測定も完璧なものではないが、もっと質の高い測定をすれば、結果はいっそう明確になるだろうとデミングは主張する。いずれにせよ、労働市場における対人スキルと人材価値の関係を理解するには、さらなる調査が必要である。
デミングの報告書は、労働市場で見られる2つの傾向の興味深い相関にも触れている。すなわち「ソーシャルスキルの重要性が増していること」と、「職業や賃金における男女の差が減少していること」は関係があるかもしれないというのだ。性別によるソーシャルスキルの差に関する直接的な証拠がないため、彼はあくまで推論と断りながらも、女性が心の知能指数と社会的知性のテストで男性より高得点を上げる傾向を示す調査を引用している。この相関は「概念的にやや飛躍しているが、不合理ではないと思う」とデミングは語る。
ソーシャルスキルやソフトスキル、心の知能指数などを重視する風潮はいまに始まったことではない。雇用者は常に、チームでの協働とコミュニケーションができる人材の必要性を強調している。その一方で、自動化が雇用に及ぼす影響について、いまだ最終的な結論はない。ロボットは職業を奪うのではなく、生産性を高めると主張する研究もある。
すべての職業が消えた暗黒の未来を想定して備え始めるのは、時期尚早かもしれない。しかし、明日の労働市場で成功するために必要なスキルを学んでいるかどうかは、いつでも考える必要がある。
HBR.ORG原文:Research: Technology Is Only Making Social Skills More Important August 26, 2015
■こちらの記事もおすすめします
チームの能力を引き出す「C因子」とは
オーグメンテーション:人工知能と共存する方法
周囲の生産性を上げた影の功労者を、正当に評価しよう
ニコール・トーレス(Nicole Torres)
『ハーバード・ビジネス・レビュー』のアシスタント・エディター