組織のパフォーマンスは、従業員どうしの交流が盛んであればあるほど向上することがウェアラブル機器のデータから実証された。そしてコミュニケーション活性化施策で重要となるのは、交流によって他者を助けている従業員に損をさせないことだ。本誌2015年3月号の特集「オフィスの生産性」関連記事。
職場における従業員の最も重要な行動は、他者との交流だ。これは私がグレッグ・リンゼーおよびジェニファー・マグノルフィとの共著でHBRに寄せた特集論文、「仕事場の価値は多様な出会いにある」の主要テーマである。確証のない一般論、あるいは誇張に満ちた学説と思われるだろうか? さにあらず、これは企業で働く人々に装着してもらったセンサーから得た知見である。
我々はウェアラブル機器を通して、従業員がお互いにどのように対話の機会を持つのか、誰がどの相手と会話するのか、オフィス内をどのように動き回るのか、そしてどこで時間を過ごすかを測定し、データを収集した。すると、一貫して次の結果が示された。我々が「衝突」と呼ぶ現象――組織の内外で知識労働者たちが経験する、偶然の出会いや予定外の交流――が、パフォーマンスの向上につながっていたのだ。我々は衝突の機会が増えるよう職場空間に手を加え、その後のパフォーマンスを観察したところ、生産性向上や売上げの急上昇などが見られた。なお、やり取りの内容に関するデータは収集しなかったことを明記しておきたい。パフォーマンスの向上を促すのは、人と人との交流そのものであるようだ。
この主張に異議を唱える方もいるだろう。とりわけアメリカ人は、生産性を個人の問題として考えたがる。ソフトウェア・プログラムの開発工数、作成した小型アプリ、完了したタスク、メールの処理数といった成果に基づいてパフォーマンスを測定しがちだ。各自の机(つまり目の前の仕事)から離れることは良いことであるばかりか、時間効率の面でも優れた行動である、などという考え方は、にわかに受け入れがたいだろう。
だが、けっしておかしくはないのだ。単純な仮定で考えてみよう。もしあなたが何らかの新たな仕事術を考案し、作業時間を週に4時間、1年間で208時間短縮できるとしよう。
そして、その仕事術を10人の同僚に、10時間を割いて教えたとする。1年後には、あなた自身の作業時間の短縮は198時間にとどまり、教えなかった場合の208時間よりも生産性は約5%低くなる。しかし同僚10人で合計2080時間の短縮となる。つまり、考案した仕事術を自分の生産性向上のためだけに使い、他者に教えなかった場合、1882時間節約するチャンスを逸したことになるのだ。
したがって、自分の発見を他者に教えるほうがよいことは明らかだが、上記はあくまで仮定の話である。現実の世界でもそうなのだろうか。
答えはイエス。実例を紹介しよう。我々は研究プロジェクトの一環で、数百万ドル規模のサーバーシステムの構築を手掛けるIT企業を調査した。従業員の報酬額は、システムをどれだけ速く構築したかに基づいて決まり、1件に要した作業時間には5分から8時間の幅があった。我々はウェアラブル機器(この研究の必須アイテム)を利用して、誰が誰と話したかを測定するとともに、各自の仕事の正確な開始時間と終了時間も把握した。