濃紺の画用紙を黄色に塗りつぶした意図

 ワークショップのテーマは「働くうえで大切にしていること」です。それぞれの思いをワークシートに記入し、自分の好きな色の画用紙を選んでスタートです。

 いち早くグレーの画用紙を選んだのは青野さん。藤村さんが黄緑、渡辺さんが水色を選んで描き始めます。デザイナーである小田さん・黒澤さんのふたりは最後まで悩み、ともに濃紺の画用紙を選んで席に戻りました。ここから、参加者それぞれの強い個性が光る「描く」が展開されていきます。

 なかでも、黒澤さんの「描く」姿は、スタッフ全員が瞠目しました。

 濃紺の画用紙を選んだにもかかわらず、黒澤さんは全面を黄色のパステルで塗りつぶし始めました。ただ黙々と、一心不乱に塗りつぶします。すると、スタッフを呼んでパステルを画用紙に定着させるスプレーを吹きかけました。こうすれば、そこまで塗ったパステルは色落ちしません。スプレーが乾くと、黒澤さんは再び黄色のパステルで画用紙全体を塗りつぶしていきました。細長いパステルを横にして、力強くこすっていきます。黒澤さんのパステルの音が、ひと際大きく響いています。

 黒澤さんがまたスプレーを要求しました。すでに、画用紙の濃紺の色は跡形もありません。スプレーが乾くと、またもや黄色いパステルを握ります。今度は横ではなく、立てた状態にしてより濃い線で塗りつぶします。そこに、まったく迷いはありません。

 ひと通り塗りつぶすと、今度は画用紙全体に白い点を描き、それを指でこすりながら滲ませていきます。やがてそこに緑、ピンクなどの点も加わり、パステルを乗せてはこする作業をひたすら繰り返していきます。その作業を終えると再びスプレー。今度は白いパステルで放射状の線を入れていきます。中心は右上の隅。それをまた指でこすります。画用紙の縁をオレンジで色づけすると、またもや全体を黄色いパステルで塗りつぶします。

 それが終わると、再び画用紙全体に点を描き加えていきます。こんどは、オレンジ、ピンク、紫、青、緑などカラフルな点です。黒澤さんは、その点を指でこすります。まるですべての点から彗星のような尾が伸びているような形。その点は、左上から右下に向かって流れているように見えます。しかし、黒澤さんは最後に画用紙を反転させ、彗星が右上に向かって流れる構図に変えました。約1時間、集中力は途切れませんでした。

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黒澤久美さん

 黒澤さんは、絵に込めた思いと描くプロセスについての意図を話し始めます。

「仕事は落ち着いて、堅実。なかにはつまらないと感じる人もいるかもしれません。それを楽しく、面白いものにしたいという意味で、全面を黄色に塗りつぶしました」

 さらに続けます。

「そのうえで、私の楽しさを意味する点を画用紙に置いていったのですが、そのうちサイボウズという会社にいるたくさんの社員の楽しさを感じてきたのです。たくさんのカラフルな点を描いたのはそういうわけです。そして、その社員の楽しさが会社の理想に向かって一直線に進んでいく。そんな理想を表そうとしました。ただ、点が向かう方向は、最初左下だったのですが、最終的には右上に向かう格好にしました」

 その意味について、黒澤さんはこう打ち明けます。

「みんなでどんどん業績を上げていこうぜ! そんな感じですね。絵のタイトルは、ずばり『行進』です」