物事のつながりと相互作用に目を向けて、本質的な解決策を見出す「システム思考」。『システム思考をはじめてみよう』を翻訳された枝廣淳子さん。ラグビー日本代表の「コーチのコーチ」、組織コンサルティング会社TEAM BOX代表の中竹竜二さん。おふたりの対話を通して、システム思考が組織のマネジメントや個人の成長にどう役立つかを探る。(撮影:和田剛)

 

日本人はシステム思考が苦手?

中竹:今日まずお聞きしたかったことがあって。「つながり」や「俯瞰して見ること」を大切にするシステム思考は、実は現代の日本人にとってちょっと苦手なのではないでしょうか?

枝廣:システム思考はアメリカ発祥ですが、中身は因果応報とか、風が吹けば桶屋が儲かるとか、東洋的な考え方に近いんですよね。日本人がちょっと苦手だと思われたのはどうしてでしょうか?

中竹:僕はラグビー日本代表のコーチングディレクターという、「コーチをコーチする」仕事をしているのですが、日本のラグビー界では、一心不乱というか、よそ見せずに1つのことをやりきることが美しい、と考える文化があるんです。おまえはラグビーだけをやってればいいんだ。引退するまで他のことは考えるな、みたいな。

枝廣:そうすると視野が狭くなり、俯瞰して見るのが難しくなってしまいそうですね。

中竹:そうなんです。昨年、TEAM BOXという組織コンサルティングの会社を立ち上げて、企業の方々と仕事をする機会も増えているんですが、マネジャーのみなさんとお話しすると、ビジネスの世界でも、いわゆる職人の文化は根強いように思います。

写真を拡大
中竹 竜二(なかたけ・りゅうじ)
日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター、U-20日本代表ヘッドコーチ、株式会社TEAM BOX代表。
早稲田大学人間科学部卒業。レスター大学大学院社会学部修了。三菱総合研究所を経て早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、全国大学選手権2連覇を達成。2019年ラグビーW杯日本開催に向けて、一貫指導体制の確立、指導者の育成などの統括責任者を務める。日本で初めて「フォロワーシップ論」を展開したひとり。著書に『リーダーシップからフォロワーシップへ』など。

枝廣:システム思考の研修などでは、よく氷山の写真をたとえに使うのですが、いまお聞きしていると、まさに氷山の一角しか見えなくなり、それが氷山の全体だと思い込んでしまいそうですね。スポーツ選手は特に、競技が人生のすべてだと思い込み、良いプレーや良い成績を支えている競技以外の部分をおろそかにしがちなのかもしれません。

中竹:そうですね。でも驚いたことがあって、いま世界中のカンファレンスでは、専門分野じゃないことからきちっと学ぼうねと盛んに言われているんです。

枝廣:それはどうしてですか?

中竹:実は、チャンピオンになる人は必ず、まったく違う分野から学習しているということが研究で明らかになっています。

枝廣:おもしろいですね。そういえば優秀な研究者に会うと、たいてい専攻分野が1つじゃないですよね。ダブルメジャーとか。

中竹:そうです、そうです。あとカンファレンスでは「IT」という言葉がしきりに使われています。何かというと、「I」ラーニングから「T」ラーニングへ。つまり「I」字型の、ひとつのことを掘り下げていく学習方法がこれまでは良しとされてきたのですが、これからは、何かをある程度学んだら違う分野に手を伸ばす「T」字型でないと、頂点にはたどりつけないということです。