適切な助言の授受とは
マネジメントスキルである

 アドバイスや助言を仰いだり授けたりすることは、効果的なリーダーシップや意思決定の要諦だが、習得や改善が可能な実際的なスキルとしては、ほとんど見られていない。往々にして、「指導や助言を受けると、知恵が働かなくなる」と考えられているのだ。助言ができるかどうかは一般に、「見識の有無」によって決まるとされ、そのための能力を身につけるべきだとは見なされない。

 助言の授受は、うまくすれば双方に恩恵をもたらす。「お墨付きを得さえすればよい」というのではなく、本心から指導を受けたいと願う人々にとっては、一人では思いつかなかったであろう優れた解決策を導き出すきっかけになるはずだ。発想に奥行きが生まれるだけでなく、認知バイアスや自己正当化といった落とし穴を避けるうえでも有用であることが、調査から判明している。有益な助言ができる人は、重要な判断を下すための力添えをするほか、行動に向けて相手の背中を押すなど、穏当なやり方で影響力を発揮する。また、人の話をよく聞く傾向があるため、自分のもとに持ち込まれる問題から多くを学ぶことができる。しかも、助言を通して恩恵を及ぼし合うと、互いの間に固い絆が生まれる。専門的な助言は、暗黙のうちに「貸し」としての意味合いを帯びる場合が多く、相手は借りを返そうとするだろう。

 ただし、助言の当事者たちは、高いハードルをいくつも乗り越えなくてはならない。たとえば、彼らはメリットの多寡にかかわらず自分の意見にこだわるという傾向が染みついている。また、相手の話をじっくり聞くのは時間がかかり容易ではないという実情もある。終始、繊細で込み入ったやりとりを重ねることになり、双方にEQ(心の知能指数)、自己認識力、自制心、外交的手腕、忍耐が求められる。助言のプロセスはさまざまな形で頓挫しかねず、失敗した場合には、誤解、いらだち、手詰まり、冴えない解決策、関係悪化、能力向上機会の喪失など、好ましくない結果が生じ、個人と組織に多大な被害が及ぶ。