最近読んだ書籍『気仙沼ニッティング物語』では、著者で気仙沼ニッティング社長の御手洗瑞子さんが、この事業を始めた動機からどのように考え、どのような施策を打って、いまのような事業が完成したかを丁寧に書いています。これを読むと、経営者の意思とプロセスと事業の形というつながりが実に明確に伝わってくるので、この会社のことをよく知ることができます。その理解が納得から共感、そして好感に代わります。同社の高価なセーターをいつか購入してみたいと、この本を読んで感じた人は僕だけではないでしょう。

 サイボウズ社長の青野慶久さんが書かれた『チームのことだけ、考えた』 も情報をさらけ出しています。同社の成長過程でさまざまな問題が発生し、青野さんがそれらの問題をどう考えたか、そしてどう対処したかが書かれていて、いまの同社のユニークな人事制度が生まれた背景がよく理解できます。

 情報を開示できる企業は、一つ一つの意思決定に偽りがなくプロセスを構築してきた企業でしょう。「自社の都合」で物事を決めるのではなく、経営の意思に沿って意思決定を積み重ねてきたプロセスは、多くの人の納得が得られるものではないでしょうか。中には「恥ずかしい」と思えるものもあるかもしれません。また誤解を与えるリスクを感じるかもしれません。しかし経営の意思が誇れるものであれば、さらけ出すことの価値をもっと評価していいのではないでしょうか。

 人は背景まで知ることで、理解が深まります。単なる安売りセールも、「在庫処分したい理由はなんだろう」と思われるよりも、セールの理由が明確であれば、購入への動機づけが強くなります。少なくとも、「顧客感謝セール」などを謳って割引きをしても、生活者から納得感が得られなければ、企業の都合が「透けて見える」と思われるだけです。

 デジタル化されたデータを集め顧客を知る努力も大切ですが、企業自らが情報を晒して、ありのままを知ってもらう努力も同様に重要だと感じます。(編集長・岩佐文夫)