「全員経営」を標榜し、ローソンという巨大エコシステムを率いる玉塚元一氏は、どのように組織を動かそうとするのか。戦略の実行こそが求められる時代に、どのように人を動かすかを聞く。(構成・新田匡央、写真・赤木真二)

みんなが納得できる方法を考え抜く

――玉塚さんが提唱される「全員経営」について興味を覚えました。むしろトップダウンの経営者というイメージがありましたが、それを否定されておられるのですか。

玉塚元一(以下略):否定しているわけではありません。トップダウンもボトムアップも両方とも必要だということです。たしかに、両方とも実現するのは難しいことです。それでも強いトップダウンと強いボトムアップが絶対に必要です。それがあってはじめて、強い組織がつくられると思っているからです。ローソンが目指すのは、全員の衆知を集め、全員で実行する「全員経営」を行い、結果として「実行一流企業」になることです。

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玉塚元一(たまつか・げんいち)
1962年東京都出身。慶応義塾大学法学部卒業。旭硝子、日本IBM、ユニクロなどを経て、2011年ローソン副社長執行役員兼COOに就任。2014年より現職。大学時代はラグビー選手としても活躍。

 ローソンの仕事に限らず、すべての仕事にはスピードが必要です。スピードを上げていこうとすると、ある程度の強引なトップダウンが必要になります。ただ、それだけで経営を遂行していくと必ず間違った方向に進んでしまうので、ボトムアップが起こる仕組みを整えておかなくてはいけないのです。トップダウンでも、社員に恐怖を感じさせるトップダウンは論外です。むしろ社員を巻き込み、納得させながらもある程度強引に舵を切っていく。そんななかでも意見が上がってきて、双方の考えが正しくぶつかり合うのが理想ではないでしょうか。

 そうは言っても、今はこの方向に進まざるを得ないという局面は必ずあります。そんなときには、トップが全体を導いていくのです。このバランスこそが、経営です。この両方がないと、経営はうまくいかないのではないでしょうか。すべてのことに言えると思いますが、経営は矛盾との闘いです。顧客満足とROEのどちらが大事なのかと詰め寄られても、相矛盾する両方が大事だとしか言いようがありません。

――玉塚さんが1日でも早く実行したいと考えても、ボトムアップで上がってくるのに時間がかかる。そこにジレンマを感じませんか。

 もちろん感じます。ただ、私たちの商売には、関与する人たちがたくさんいます。いくら経営サイドが強引に進めても、面従腹背で表面的にやっているフリをして、本質が何も変わらなければ意味はありません。本質的に仕組みが変わったり、仕事のやり方が変わったりするには、みんなに納得感を持ってもらいながらも、ある程度の強引なトップダウンで導いていかなければならないのです。

 先ほどスピードと言いましたが、決めるべきことは早く決めたほうがいい。それがたとえ7割の精度であったとしても早いほうがいい。実行していくプロセスでは、さまざまなことが起こってきます。そこでいろいろな意見を吸い上げ、さまざまな状況に合わせた代替案を提示しながら進めていくことが重要です。すべてのことは、実行してみないと何もわからないからです。

――玉塚さんは「全員経営」と「全社員経営」は違うというお考えです。ローソンのようなフランチャイズビジネスの場合、加盟店オーナーを巻き込むのは、社員を巻き込むよりもモチベーションが異なるので大変だと思います。加盟店のオーナーを巻き込むために、どのようなことを心掛けていらっしゃいますか。

 どちらも簡単なことではありません。あえて比べるならば、どちらかというと「全社員経営」のほうが楽だというだけです。社員は7000人ですが、加盟店は20万人です。規模がまったく違うので、それをまとめるのが難しいのは当然です。ただ、加盟店のみなさんに方針を伝えていくのは社員です。まずは核となる社員が納得しないと始まりません。大事なことは、経営陣と社員が加盟店の立場に立って、みなさんが納得できる方法を考え抜くことだと思います。私がレターやビデオで新しいことをやりますと表明したとき、それを加盟店のみなさんがどのような状況で聞くか。そういうことをわかったうえで、どうやってそのメッセージを伝え、どうやって納得してもらうかを考え抜くのです。私が加盟店のみなさんと直接話をするのも、本部にいるだけでは現実とずれてくるからです。