自動運転技術をはじめAIの発展が世界を変えようとしている。人工知能は人々の仕事を奪うと言われるが、AIは人の生活にどのような影響を与えるか。自動運転の開発者でグーグルXの創設者でもある、セバスチャン・スラン氏に、人工知能の未来についてご自身の生活に絡めて聞く。(構成・新田匡央、写真・赤木真二)

シリコンバレー的な考え方はだれもができる

編集部(以下色文字):スランさんはドイツ人ですが、ドイツ人と私たち日本人は規律を重視する点で似ています。一方、スランさんがいらっしゃるシリコンバレーは、対極的な位置にあると思います。日本人がシリコンバレーのカルチャーを受け入れるのは難しいのですが、ドイツ人のスランさんは大活躍されています。

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セバスチャン・スラン(Sebastian Thrun)
1967 年、ドイツ生まれ。ロボット科学者、コンピュータ科学者。自動運転の開発者であり、グーグルXの創設者としても知られる。2012年に無償で教育を受けられる世界をめざし、ユダシティー社を創設。

セバスチャン・スラン(以下略):シリコンバレーの考え方にはなかなか馴染めず、数多くの恥をかきました。テクノロジー、教育、医療の変革を考えるときに、最初は自己防衛的でした。ヨーロッパ出身ということもあって、伝統を重視していました。

「違う、歴史はこうだ」

 将来へ向けたソリューションを考えているのに、過去を見る習慣が染みついていたのです。むしろ、歴史を防衛していたのかもしれません。変化のためには何でもやる。オープンマインドで白紙に戻って考える。そんなシリコンバレーの考えとは正反対でした。

 いま、私がシリコンバレーでうまくやっている能力は、もともと持っていたものではありません。シリコンバレーに来てから獲得した能力のひとつです。シリコンバレー流の考え方、やり方を学んだのです。Google共同創業者でCEOのラリー・ペイジも、私のメンターのひとりです。つまり、これは誰にでも獲得できる能力なのです。もちろん、たやすく学ぶための環境は必要です。シリコンバレーこそが、まさにその環境だと思います。

 あなたがシリコンバレーに馴染んだ象徴的な出来事は、スタンフォード大学の「テニュア(教授として終身雇用を保障される権利)」を放棄されたことだと思っています。

 私にとって、人生で最高の意思決定でした。私はスタンフォード大学のテニュア制に反対しているわけではありません。ただ、私にとってテニュアを受け入れることで学ぶべきものがなかったというだけのことです。シリコンバレーでさまざまな活動をしているほうが、私は社会に影響力を発揮できるようですからね。