日本には「正直者は馬鹿をみる」という諺があります。セールスフォースがどれだけ顧客に誠実な対応をしても、顧客が途中で製品を切り替えることも考えられます。言わば「裏切り」です。セールスフォースもそうした経験をされたと思いますが、顧客が不誠実である場合はどのように対応されるのですか。

 さまざまな顧客のCEOに最も気になることを尋ねると、ほとんどのCEOは口を揃えるようにこう言われます。

「成長、株主への価値の還元、お客さまの成功」

 これらのことは、セールスフォースが注力している領域とまったく重なります。顧客の望んでいることと、セールスフォースが進んでいる方向は、しっかりと一致しているのです。さらに、セールスフォースのプラットホームは、さまざまな顧客の成功を支援した機能を織り込んだ「シェアサクセスモデル」です。このような成功を共有するカルチャーは、競合他社は持ち得ていません。競合他社は、引き続き旧来型のビジネスモデルで勝負を続けています。具体的に言えば、顧客に永続ライセンスを購入してもらうことです。さまざまなリスクは、顧客が負担することになります。

 競合他社がセールスフォースのようなカルチャーに移行しようとすると、既存のビジネスモデルとの衝突が生じます。結果的に、真の意味で顧客の成長、成功に注力することができないのです。企業の経営陣は、誠実性やインテグリティを重要視しています。セールスフォースのビジネスが、顧客からの信頼をベースにしているので、その点でも競合他社との差別化は図られていると思います。

 あなたのご質問に答えるとすると、セールスフォースが顧客に信頼されているかぎり、顧客が不誠実な対応を受らない、ということになります。

創業者のマーク・ベニオフ氏は、顧客にとって適切な製品がセールスフォースになかった際、顧客に他社の製品を勧めたそうです。自社のビジネスを優先的に考えるよりも、顧客の成功を考えたほうが儲かるとお考えですか。ちなみに、日本には「急がば回れ」という諺があります。

 セールスフォースは、顧客の成功のために必要なアドバイスをするのが責務だと考えています。マークの事例のようなこともするかもしれませんが、セールスフォースのクラウドのエコシステムを充実させることが、顧客の成功にとって最も有効な手段だと思います。

 創業から16年が過ぎましたが、市場にクラウドを投入し、新しい波を創り出したのはセールスフォースです。その後も長年にわたり、最も革新的な企業として評価していただいています。ただ、新しいテクノロジーは日々市場に出てきています。顧客の考え方も、日々変わっています。顧客の信頼をベースにそうした変化にも刺激を受けながら、セールスフォースの提供するソリューションも変化を続けています。そこで重視しているのは、長期的な視点です。長い目で見た顧客の成功を支援させていただくことが、セールスフォースの揺るぎない方針となっているのです。