自分の意思と存在は、
小さくても確実に宇宙の流れに組み込まれていく
山本さんの絵は、周囲にはどう見えたのでしょうか。岡田さんの印象はこうです。
「全体的に暖かい色に見えました。左側の葉っぱのようなものの中が白いことから、落ち着いた純真さを持つ心のようなものを感じましたね。意図しているかどうかわかりませんが、優しさとしなやかさも感じました」
プロの眼にはどのように映ったのでしょうか。ホワイトシップのアーティスト・谷澤邦彦(kuni)さんはこう言います。
「暖かい世界にしか生きられない葉っぱだけど、逆にその葉っぱがオレンジ色の暖かな世界を作っている。両方の側面から言えるように感じました」
山本さんは、働くうえで大切にしていることとして「全体最適(チームプレイ)」と「悠々自適(楽しみたい)」を挙げました。
「でも、描いていくなかで、もうひとつあると思ったんです。『ゼロ トゥ ワン』がそれですが、これまで誰かがやったことではなく、何か新しいものを作るのが好きなんだなあと気づきました。それが白だと思ったんです。みなさんは葉っぱのように見えるとおっしゃっていますが、葉っぱのつもりはありませんでした。白いところに明瞭な線を引きたくなって、やってみたら葉っぱのようになったという感じですね」
山本さんは、この絵に自分だけの楽しみを隠そうとしたそうです。
「左側に入っている紫色の線は、額の台紙に隠れて見えないことを前提として描いたんです。実はピンクも入っています。誰も気づいていないけれど、私だけ気づいている楽しいこともある。そんな意味を込めてみました。タイトルは『ささやか』です」
こんどは、大沢さんの絵です。動的に見えたというのは岡田さんです。
「二朗さんの柔軟な心の動きのように見えて、しかも真ん中には情熱がある。白い線で表現された全方向に向いた情熱は、ずっと終わらない感じがしました。しかも、中心は動かないので、仁王立ちというイメージも湧きましたね」
Kuniさんはどんなイメージを持ったのでしょうか。
「パッと見は蝶、花のように見えたんですが、見ているうちに白い部分が芯の強さを表現しているように思えてきました。中心部分が白ではなく抜けているのは、謙虚さを表しているようにも見えます。芯は強いけれど、自己主張だけが強いのではなく、確かな存在がそこにある。そんなイメージが浮かびました」
大沢さんが働くうえで大切にしているのは「情熱」「バイアスを持たず、先入観を持たずに物事を見ること」だといいます。
「赤を情熱、青をバイアスのかからない心として表現しています。その間にあるのが輝くものだろうと思って描きました。ただ、それだけではいいものは得られそうもない。そう思って黄色と緑の線を入れました。この2色は、第三者からの情報や手助けを表現しています。それがあってはじめて、輝くものを手に入れることができる。そんな思いでこの絵を描きました。タイトルは『融合』です」
岡田さんから「売れますよ、これは」という声が飛びます。長谷部さんからは、真ん中の色が抜けたところの意味について質問が投げかけられました。
「輝くものは、まだ形になっていないものが多い。アストロスケールさんの事業もまだ原石です。原石の時点で輝いてはいますが、これが形になっていけばさらに輝きが増していく。そんなイメージですかね」
最後は、岡田さんの絵です。まずは大沢さんの印象から。
「全体は宇宙。白い部分はひらめきのように見えました。ただ一方で、その白いものが左下に落ちていっているように見えるので、完全無欠のノブさんといえども、誰もやっていないことに取り組むことに不安を覚え、それと闘っているのかなと思いました」
山本さんにはどう見えたのでしょうか。
「全体的にダークな色ですが、輝く部分もあって、キツいけれども頑張っているという感じに見えました。ただ、ダークな色でもよく見ると、レインボーになっています。そこにすごいことをやっている自負みたいなものを感じましたね」
岡田さんが、自身の絵について語ります。
「僕が仕事をするうえで大切にしているのは『永遠(とわ)に学徒たれ』です。この事業はひとりではできません。多くの方々のサポートが必要です。しかも、まだまだ時間がかかります。その意味でも、常に謙虚で学び続けたいという思いがあるんです。そんな自分自身を表すのが、白く描いた点です。宇宙には厳然とした流れがあって、それには抗えないと思っています。それが、白い点を左下に置いた理由です。ただ、そのなかに小さいけれども確実に自分の存在はある。そして、赤と緑で表現した自分の意思は、小さくても確実に宇宙の流れに組み込まれていく。そんなイメージで描きました」
岡田さんは、この絵に『宇宙精神』というタイトルをつけました。ただ、と苦笑いを浮かべて岡田さんが続けます。
「みなさん言われてハッとしたんですが、白い点は左下から右上に向かっていくイメージで描いたんですよ。でも、確かに左下に落ちていくように見えますよね」
岡田さんがこの絵に込めた思い。DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー3月号もあわせてお読みいただくと、さらに深く理解できると思います。ぜひご覧ください。