私がノースウェスタン大学のマリアム・コウチャキ、セントラルフロリダ大学のアタ・ジャミーと共に行った研究では、次のことが明らかになった。オーナーシップは組織に対する感情に影響を及ぼすばかりか、他者への優しさと寛大さを助長するのだ。

 ある実験では、大学生205人を「オーナー」条件と「入居者」条件という2つのグループに分けてから、パーティションで仕切られた小部屋を全員に割り当てた。オーナーの学生には小部屋を自分のものだと見なしてもらい、9枚のポスターの中から1枚を選んで壁に貼るよう指示した。次に、なぜそのポスターによって小部屋が自分のものらしく感じるのかを、数行の文章で表現してもらった。また入居者のグループについては、同じ9枚のポスターの中からあらかじめ実験者が無作為に1枚を選び、学生が入る前に小部屋に貼っておく。そして小部屋に入った時の気分と、実験に参加することをどう思うかを文章に書いてもらった。

 その後、被験者全員に「独裁者ゲーム」をさせた。各人と、他の小部屋にいる別の学生との間に10ドルが与えられる。そして、どちらかが無作為に「分配役」に選ばれ、10ドルから自分の取り分を決めることができ、残りは相手に分配される。ただし実際には、被験者全員に分配役が回るようにして、相手にいくら渡すかを決めてもらった。

 結果はこうなった。オーナー条件の学生がパートナーに分け与えた額は平均4.08ドルで、入居者の平均2.94ドルよりも多かった。作業スペースへの心理的オーナーシップを持たせた被験者は、より気前が良くなったのだ。

 この理由は、オーナーシップによって、人間なら誰しも持ち合わせている基本的な心理的要求(アイデンティティの保持や所属意識)が満たされるためだ。基本的要求が満たされると、人間は他者に優しくなり、助けを求められれば手を差し伸べる気になりやすい。

 我々はまた、さまざまな企業のフルタイム社員750人を対象にした別の実験で、自身の現在の仕事について考えてもらい、そのデータを収集した。オーナー条件に振り分けられた被験者には、個人的に所有意識を感じるアイデアやプロジェクト、仕事場所について考えてもらい、文章にまとめてもらう。かたや対照群には、職場で普段どう過ごしているかを書いてもらう。

 被験者にはその後、上記に関係ないアンケートにいくつか答えてもらう。そして最後に、研究チームを助けるために5分間のアンケート調査に無報酬で協力してもらえないか、と打診した。人がさまざまな領域での異なる状況をどう理解するか調べたい、という名目だ。すると、オーナーの被験者は36.7%が協力を申し出て、対照群の28.1%よりも多かったのである。

 上記を含め私の複数の実験結果を総合すると、社員は強いオーナーシップを感じている時、協力的な行動を取ろうという気持ちになりやすいということが言える。すなわち、当事者・所有者であると実感できるよう社員に働きかければ、仕事でもその他の局面でも、好ましい行動を引き出せるのだ(普段から他者に親切になる、等)。

 さらに言えば、職場で心理的オーナーシップを促進するために、大きな改革は必須ではない。一般的に人材マネジメントにおいては、各種の報酬スキームや従業員持株制度、ストックオプションなどがその手段として用いられてきた。しかし他の方法、たとえば職場にあるモノとのつながりを強めるといったことでも、オーナーシップを喚起するうえで同等の効果があるかもしれないのだ。


HBR.ORG原文:How to Make Employees Feel Like They Own Their Work December 07, 2015

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フランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino)
ハーバード・ビジネススクール教授。経営管理論を担当。著書に『失敗は「そこ」からはじまる』(ダイヤモンド社)がある。