組織変革の要諦の1つは、リーダー自身が説得力のあるストーリー(展望・理念)を示して導くこととされてきた。しかしそのストーリーは、従業員自身の望みと合致しているだろうか。従業員の「当事者意識」がいかに変革のエネルギーとなるかを示す、実験と事例を紹介する。本誌2014年6月号(5月10日発売)の特集「最強の組織」関連記事、第2回。


 くじ引きに手を加えて行われた、有名な実験がある(社会心理学者エレン・J・ランガーの報告 による)。参加者の半分には、ランダムな抽選番号が割り当てられた。残る半分には白紙のカードとペンが与えられ、自分の抽選番号として好きな数字を書き込むよう求められた。そして研究者たちは当選番号を抽選する前に、宝くじの買い戻しを申し出た。その意図は、「“ランダムな番号を与えられた人”と“自分で番号を書いた人”のどちらに多く支払うことになるか」を知るためである。

 合理的に考えれば、買い取り額に差は生じないはずである。宝くじの当落は純粋に運で決まるため、任意か割り当てかにかかわらず、すべての番号は同じ価値を持つという考え方だ。もう少し頭をひねる人なら、自分で番号を記入したくじのほうが安いと予想するだろう。その集団の中で番号が重複している可能性があるからだ。

 正解は何か。実験を行った地域や被験者の属性を問わず、自分で番号を記入した人への買い取り額のほうが5倍以上多かった。

 この結果は、人間の本質に関する不都合な真実を明らかにしている。つまり、人は自分自身で物事を選択した場合、そうでない場合よりも、はるかに強くコミットメントを見せるのだ。その割合は実に5対1である。

 従来の組織変革のアプローチは、この影響を過小評価している。合理的な考えの持ち主は、自分がすでに知っていることを従業員にみずから発見させるのは時間の無駄だ、こちらが教えればそれで済むのだから、と思っている。残念ながらそのアプローチでは、変革の推進に不可欠なエネルギーを従業員から奪うことになる。なぜなら、そのエネルギーは「答え」に対する当事者意識(オーナーシップ)から生まれるからだ。

 実例を挙げよう。あるリテール銀行の個人向け金融サービス(PFS)を率いるCEOは、上記の知見をきわめて忠実に解釈し、有意義だと思う方法で取り入れた。まず自分の考える改革ストーリーを文章に書き出し、それを自分の経営チームに見せ、共感する点と説明を要する点についてフィードバックを受けた。次に、彼はチームの1人ひとりに「自分独自の宝くじ」を書かせた――各自の担当事業を改革し、PFS全体の改革をも後押しするようなストーリーとはどのようなものか。各経営幹部は自分の改革ストーリーを文章にして、今度は自身が率いるチームと共有して互いにフィードバックを与え合った。さらに、そのチームの各々が自分の担当地域と部門の改革ストーリーを書き、そのプロセスは最前線の従業員に至るまでずっと続けられた。これは各部門を廻って説明会を開く従来の方式に比べ倍の時間を要したが、変革の取り組みに対する5倍のコミットメントという見返りを考えれば、妥当な投資だった。