有害になりそうな従業員の傾向とは?
研究では、有害な行為の予測因子となる特定の性格と行動特性も明らかにしている。
自信過剰、自己中心的、生産性が高い、(自己申告による)規則遵守の意志、という特性を示した従業員は、有害人材となる可能性がより高いことがわかった。スキルに対する自信が1標準偏差増えると、有害な行為で解雇される可能性は約15%高くなった。より利己的で他者のニーズにあまり関心を払わない従業員は、その可能性が22%高かった。「規則には“常に”従わなければならない」と回答した従業員は、現実には規則違反で解雇される可能性が25%高かった。また、チーム内に別の有害な従業員がいた人は、同様に不祥事で解雇される可能性が46%高かった。
自信過剰とナルシシズムが仕事の成果にマイナスとなることは、以前の諸研究でも示されていた。今回大きな驚きであったのは、「規則には“常に”従うべき」と信じていた人が、「目的達成のためには規則を破ることがやむを得ない場合もある」と回答した人に比べ、有害な行為に走る可能性がいっそう高かったことである。
マイナーとハウスマンはこの理由として、求職者は採用担当者が聞きたがることを語ろうとするからであろう、との仮説を立てている。「規則には従うべきだと回答した人は、本来はマキャベリ的な策士である傾向が強い可能性がある。仕事の獲得につながるならば、どのような規則、性格、信条でも受け入れている振りを装う場合がある。マキャベリズムと逸脱行為の関連については、強力な証拠がある」と記している。
また、調査サンプル中の有害な従業員は、業務の遂行時間が同僚よりも短いという点で、平均的な従業員よりも生産性が高かった。このことは、非倫理的な従業員に関する他の研究とも一致するという。つまり「腐敗しているが成績優秀である」という、表裏一体の特徴だ。
他の研究によれば、「邪悪」な性格(サイコパシー、ナルシシズム、マキャベリズム)の持ち主は、そのパフォーマンスとは関係なく仕事で成功することが少なくない。カリスマ性、好奇心、高い自己肯定感といった、他の有益な特性を持っているからだ。しかし彼らは、長期的には組織の助けにならない可能性が高い。マイナーとハウスマンの報告でも、有害人材は平均的な従業員より仕事が早いかもしれないが、仕事の質は必ずしも高いわけではない、としている。
まずは毒を避けよ
マイナーは私に、メールでこう答えてくれた。「人々は往々にして、人材の採用と評価に際し1つか2つの側面しか考えていません。高い生産性で売上げに寄与し、顧客サービスにも優れているような人を求めます。しかし、3つ目の側面があるのです。それは、“組織市民性”(corporate citizenship:組織に対し自発的に、無償で貢献する姿勢)です。この姿勢が著しく欠けているようであれば、よい採用とはなりえません。生産性はあまり高くなくても、組織市民性に優れている人を採用したほうが、組織全体の生産性はより高まるものと思われます」
マイナスの影響はプラスよりも大きい、という概念はいくつかの分野で定説となっている。たとえば行動ファイナンスでは、損失の苦痛は利益の喜びよりも大きい(プロスペクト理論)。心理学では、人は良い経験よりも悪い経験をよく覚えている。言語学では、人はポジティブまたは中立的な言葉よりも、ネガティブな言葉により強い関心を向けるとされる。有害な従業員が組織に及ぼす悪しき影響が、無害なスター人材のもたらす効果より大きいのであれば、マネジャーは前者にもっと注意を向けるべきである、と言えるだろう。
「この問題は、医学の世界でよく用いられる“まず何よりも、害を与えないこと”(primum non nocere)という言葉が当てはまると思うのです」とマイナーは言う。マネジャーはこの助言に従うならば、より包括的な雇用のアプローチを採る必要がありそうだ。スーパースターを惹きつけることと同じかそれ以上に、有害な人材を雇わないよう積極的に努力すべきである。
HBR.ORG原文:It’s Better to Avoid a Toxic Employee than Hire a Superstar December 09, 2015
■こちらの記事もおすすめします
朝型の人、夜型の人、自制心のゆるむ時間帯
「端数の切り上げ」程度の気持ちから不正は始まる
なぜ、「邪悪な性格」の持ち主は成功しやすいのか?
ニコール・トーレス(Nicole Torres)
『ハーバード・ビジネス・レビュー』のアシスタント・エディター