リーダーの要件として、自らの意思を伝えることと同時に、「メンバーの話を聞く」ことが重要である。想いを伝えることと、相手の想いを聞くこと。この両立は、意外と自分が考え抜くことで実現するのではないか。

 

人の話を聞く、3つのむずかしさ

 最近、「人の話を聞く」という単純なことの難しさを実感しています。この場合の「聞く」は情報を得るというレベルではなく、「相手の考えていることを知る」ということです。

 難しさの1つは、特にリーダーがそうですが、自分の意思を伝えたいという思いが邪魔することです。リーダーには組織を率いるビジョンが不可欠で、どういう方向を目指すのか、その意思が問われます。ここがぶれるとメンバーは不信感を持ちますし、不安にもなります。自らの意思は機会あるごとに伝えないと組織には浸透しないものです。経営者の方を見ていると、よく同じ話を何度も繰り返しできるものだと感心することがあります。それほど、人に自分の想いを伝えるのは大変だということを、身をもって実感されているのです。

 人の話を聞く、難しさの2つ目は、「相手を理解したい」欲求より、「自分を理解してほしい」欲求が上回ってしまうことです。その場合、相手の話を聞いていながら、考えているのは自分が次に何を話そうかということ。相手の文脈に応じて、伝わりやすそうな自分の話を探しているのです。これは一見、相手の話を聞いているようで、実はその根底には「理解してほしい」欲求が潜んでいるだけ、さらに厄介です。これは一つの承認欲求でもあり、包容力といってしまえばそれまでですが、無意識に「聞き」ながら相手の説得方法を考えてしまうこともあります。

 難しさの3つ目は、自分の意見に自信がない場合に生じます。自分の方針が否定される、あるいは異論を唱えられる。自分の考えや方針に自信がないと、相手からの異論や反論を察知すると、無意識のうちに相手の意見をシャットアウトしてしまう。いわゆる「ディフェンシブになる」という状況です。相手の話を聞くよりも、自説を説得しようというモードに切り替わってしまいます。反論・異論を恐れるあまり、会話の主導権を握ろうとしたり、相手の発言を遮ってしまおうとしてしまうことさえあります。

 これら3つを併せ考えると、逆説的ですが、自分が考え抜けば抜くほど、相手の話を素直に聞くことができるのではないでしょうか。考えた量とバリエーションによって、相手の考えている地点が見えやすくなります。そして、自分で精一杯考えたと思えれば、相手の意見も仮に反論であっても、自分の考えを参照する・補強するものとして聞けます。

 自分の考えを固めることと柔軟な聞く姿勢は、確かに両立が難しい。しかし、ぶれない軸とは、どんな荒波にも耐えうる、しなやかさを備えた強さです。ただの頑固さでもなく、優柔不断さでもない。自分なりの考えを深めたいという姿勢。これがあれば、人の意見に左右されることもなく、人の意見に頑なに抵抗することもなく、ピュアな「聞く姿勢」が可能になるような気がします。(編集長・岩佐文夫)