交渉とは、相手と仕事を始める最初のプロセスである。相手からいかによい条件を引きだすかとともに重要なのが、一緒に仕事をする相手としての信頼関係を築くことである。
正直さが武器になる
青臭いと言われるかもしれませんが、DHBRの5月号で「交渉」の特集を編集してみて、交渉は、人間性が問われる局面だと痛感しました。もちろん、交渉のスキルや技術を否定するつもりはありません。ビジネスプロセスである以上、効果と効率の最大化を目指す上で、求められるスキルは高いです。それでもなお、今回の編集を通して人間性に行きつくと実感しました。
そもそも交渉は、新しい仕事のスタートです。両者がこれから仕事を一緒にしていこうという意思を持ち、その枠組みを決めるためのものです。お互いに有利な条件を引きだす以上に重要なのが、「この相手と組むべきか」を確認する場でもあります。交渉を通して学ぶべきは、相手の人間性であり、本当に仕事を成功させようと思えば、相手への信頼とリスペクトは欠かせません。
ローソンの玉塚さんにインタビューをして、そのことを実感しました。今回、お会いするのは2度目だったのですが、初対面の時から親近感をもって接してくださる方でした。あたかも「よく来てくれたね」と語りかけるような雰囲気で接してくださいます。
今回のインタビューでも、言葉にしなくても誠実さが伝わってきます。自分を大きく見せようとしない。分からないことはわからないと言う。視線を決して逸らさず、こちらの質問にまっすぐ答える。これら、人として、当たり前のことを当たり前にされる。「誠実さ」を心がけている以前に、誠実な人という印象です。
こういう人となら仕事を一緒にしてみたいと思わさせる。何しろ、一緒に仕事をしたら楽しそうだと。こちらの要望にも、誠心誠意尽くしてくれようと試みてくれるに違いない。これこそ、究極の交渉力ではないでしょうか。
HRWの土井香苗さんは、「八方美人ではなく、常に正論を語る」と仰ります。その場で都合のいい言葉を並べても、長期的な関係づくりをするためにはむしろマイナスである。最初に理解されにくくても、一貫した姿勢が相手の信頼を勝ち取ることを痛感しました。
交渉を相手と交わるスタートだとすると、よく見せようとしても長期的にこぼれ出てしまう自分の力量は、最初から晒した方がお互いのためです。よく見せようとするより、等身大に見せようとする姿勢こそ、交渉には欠かせないでしょう。
また交渉で何を見るかと言えば、相手の人間性でしょう。「人間性」という言葉は定義しにくいですし、人を評価する際に持ち出すと思考停止に陥りがちですが、日々人と接していると、相手の人間性に触れる瞬間は確実にあります。相手の仕事の姿勢や生きる姿勢に感銘を受ける瞬間に嘘はなく、そういう人との仕事は決して裏切られることはないと感じます。(編集長・岩佐文夫)