名門企業が凋落すると、創業者精神に立ち返ることが求められる。ソニーもその代表かもしれない。しかし、盛田昭夫にいま学ぶべきは、ソニーのみならず、すべての日本企業かもしれない。

 

かつて存在した、日本人の世界的リーダー

 また自社本の紹介で恐縮ですが、『ソニー 盛田昭夫』について書かせてください。本書を読んで痛感したのは、ソニーという会社は、何と言っても日本人の誉れであること、そして盛田昭夫という世界に誇れるリーダーがかつて日本にもいたという事実です。

 いまさらですが、ソニーは1946年に井深大・盛田昭夫という二人の技術者によって東京通信工業という社名で設立されました。その技術力で順調に成長を遂げた同社で、盛田は主にビジネス面で力を発揮するようになります。戦後、荒廃した日本から生まれた製品が世界を席巻していく姿は、日本の高度成長そのものでした。高い技術力と品質を備え、世界にSONYブランドを広めていく。

 海外旅行で、SONYの文字を目にして、日本人として誇りを感じたことのある人は少なくないでしょう。洗練された製品が世界で受け入れられた事実、それは、現代のアップルのような存在でした。

 その先鋒役を務めたのが、盛田昭夫です。英語が得意だったわけではありません。むしろ、現存している録画を見ると、決して発音がいいとは言えない英語ですが、堂々と話す姿が印象的です。そんな盛田氏は、ソニーの経営者として、そして日本企業を代表して世界に発信し続けます。日本人が敬愛するスティーブ・ジョブスが、まさに心から敬愛していたのが盛田さんです。

 今日のソニーはかつての勢いを失い、再起をかけた戦いを続けています。マスコミを始めソニーに対する厳しい見方も多い。それは、過去の栄光が偉大だったこと、そして偉大な創業者が存在したことの代償でもあります。

 名門企業が凋落すると、創業者の精神に立ち返ることが求められます。しかし、本書で紹介する盛田昭夫の精神を学ぶべき対象は、ソニー関係者に収まらないでしょう。多くの日本企業が、いまこそ盛田昭夫に学ぶべきです。

 それは果敢にリスクを取って、新しい世界をつくるためにチャレンジしたこと。そして事業を通して世界でリーダーシップを発揮した、そのメンタリティです。本書のサブタイトルは、「“時代の才能”を本気にさせたリーダー」ですが、盛田昭夫の存在が、才能あふれる人材をソニーに集めました。そして彼らが本気となって、チャレンジを繰り広げた。いまの日本企業に、才能ある人材を引きつけている人がどれだけいるか。そして、そのような人材の能力を存分に引き出している企業があれば、きっと世界に輝く存在感を示した企業になっているでしょう。

 盛田昭夫という稀代のリーダーの存在を学ぶことで、我々は、世界にチャレンジするマインドと組織づくりを再び手に入れたいものです。(編集長・岩佐文夫)