いまはまだ、先のことは考えていない
目の前のミッションに全力で取り組む
――前回のインタビューでは、選抜の過程で落選した方とも仲が良いと伺いました。大西さんの飛行時期が正式に決まってから、彼らの反応はいかがでしたか。
二次試験のメンバーのメーリングリストがあるのですが、みなとても喜んでくれて、応援のメールをたくさんくれました。
実は、二次試験を一緒に受けていた人が、いま身近でミッションに携わっています。長期滞在は48次と49次に分かれますが、49次で「きぼう」の管制チームのリードフライトディレクターを担当してくださる市村さんは、2次試験のときに一緒のグループで戦った仲間です。彼のような人物が自分の滞在のフライトディレクターをやってくれるのは、すごくやりやすいですよね。
それから最終選抜まで一緒に戦った内山さんは、大学の研究室も一緒でした。彼はいま、「こうのとり」のフライトディレクターになっています。ほかにも宇宙実験の担当者になっていたり、「きぼう」の管制官になっていたり、最初から信頼関係ができているのは本当にラッキーだと思います。
――家族や友人に報告されたときの反応は、いかがでしたか?
家族は訓練を頑張ってきた様子を見ているので、その意味では「おめでとう」と思ってくれていると思います。ただ、心配な部分もあると思いますね、やっぱり。私に対してそれを明言はしませんが。
父親は普通に「頑張ってこい」という感じですが、特に母親は心配もしていると思います。そういう素振りは見せないながら、親としてその気持ちもそれは理解できます。子どもに余計な負担をかけないように、心配している姿は見せない気配りは、自分がその立場でもそうするなと思います。その気持ちがわかるからこそ、なおさら感謝しています。
また、全日本空輸(ANA)時代のパイロットの同期が壮行会を開いてくれましたが、「本当に行くんだな、お前」と驚いていました(笑)。パイロットの訓練は本当に厳しく、全寮制のような環境で何年間も寝食を共にしていたので、彼らには特別な感情もあります。あまり格好悪いところは見せられません。
ましてや、それだけ頑張ってパイロットになったにもかかわらず、私一人だけがその道を捨てて、別の道に行きました。同期の仲間たちはその道を歩き続けて、いまは大型旅客機のキャプテンになっています。彼らに負けないような、恥じないような仕事をしたいという気持ちがあります。
――プレッシャーをかけるわけではありませんが、日本代表として宇宙に行かれるにあたり、特別な意識は芽生えるものですか?
仕事に対する不安はありませんが、そのことに対するプレッシャーは感じています。宇宙飛行士候補者に選ばれて、初めてブルースーツを着て日の丸がついているのを見たとき、それは自分だけの夢ではなくなったことを実感しました。その瞬間、はっきりとプレッシャーを感じたのを覚えています。
特にいま、ISSのプログラムの中で、日本が果たしている役割がかなり大きくなってきています。なかでも2016年は、エアロックを使った実験があるので、いろいろな国に対してその利用機会を提供します。また、「こうのとり」6号機の打ち上げという大きなミッションも控えているので、日本の存在感がさらに増す、これまでになく輝く1年だと思います。
その時期に自分が行くことは重責でもありますが、同時に、すごくラッキーだなとも思っています。
――いま聞くのは早すぎるかもしれませんが、戻ってきたあとのことは考えていますか?
あまり考えていないですね。とにかくまずは、自分の長期滞在をしっかりと全うすることに集中したいと思っています。
過去に一度、同じような質問を、今度コマンダーになるジェフ・ウィリアムス飛行士にしたことがあります。彼は本当にベテランで、長期滞在自体はもう3回目だと思います。年齢も50代後半を迎えていて、彼のその次に何が待っているかには興味がありました。
ジェフに、「今度の滞在が終わったら、どういう道に進むの?」と聞いたところ、「いま与えられているミッションが終わるまでは、そのことしか考えないようにしている」と言われたんですよ。その心構えはすばらしいと思いました。先を見越すことも大事ではありますが、まずは目先のことを全力でやるべきだと、そのときに教わったと思っています。
――最後に、日本の方たちに知っておいてほしいこと、伝えたいことはありますか?
これまで世界の宇宙開発とは、米国とロシアという両大国がけん引し続けてきましたが、日本はそれに次ぐ位置にあると思います。ある分野に関しては、日本の技術に米国やロシアが依存しているようなところもあるので、日本が宇宙で活躍していることをぜひ知ってもらいたいですね。国際的な関係の中で日本の存在感が向上することは、日本全体にとってもプラスだと思います。
宇宙ステーションは、さまざまな側面でその成果を地上に還元すべきだと考えていますが、その一つには外交的な要素もあります。単に科学的な成果だけでなく、そういったところにもぜひ注目していただきたいなと思っています。