現代社会は、日々、生産性の向上が求められている。しかし同時に、新しい何かを生み出す「創造性」もビジネスパーソンに不可欠である。本連載は、新たな価値を提供し続けるトップクリエイターに、創作の過程で不変とするルールを語ってもらうことで、その源泉を探る。第2回はパティシエの辻口博啓氏が登場。(写真/鈴木愛子、編集協力/加藤年男)※ 辻口氏の「辻」の漢字表記は一点しんにょうです。
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〈和〉をもって世界を制す

辻口博啓(つじぐち・ひろのぶ)
パティシエ
1967年、石川県で和菓子屋の長男に生まれる。 18才の頃より都内のフランス菓子店及びフランスで修行を重ねる。クープ・ド・モンドをはじめ世界大会に日本代表として出場し、数々の優勝経験を持つ。サロン・デュ・ショコラ・パリで発表されるショコラ品評会においては、 2013年~2015年の3年連続で最高評価を獲得。さらに2015年、国際的なチョコレートの大会「インターナショナルチョコレートアワード世界大会」のチョコレートバー部門で、金賞を受賞。モンサンクレール(東京・自由が丘)をはじめ、コンセプトの異なる12ブランドを展開。2014年には初の海外店舗「モンサンクレール ソウル」をオープン。素材にこだわり、スイーツで地域振興を行うほか、砂糖不使用のチョコレートなど健康に配慮したスイーツを開発する。各店舗の製造・運営の他、「日本スイーツ協会」の代表理事を務め、スイーツを日本の文化にすべく、「スイーツコンシェルジュ検定」を実施する。

 私は、石川県七尾市の「紅屋」という老舗和菓子店の三代目として生まれた。 

 厨房の2階で生活していたため、餡を練り上げる音や餅をつく音、饅頭を蒸す香りやどら焼きを焼く香りに包まれて幼少時代を過ごす。そこは茶室があり、池があり、鯉を愛でながらお茶を点て、できたての練り切りを食べられるお店だったことを鮮明に覚えている。