物理的な資産が稀少だった時代、しかも事業変化のスピードが遅かった時代は、選択と集中の論理が通用するケースが多かった。複数の事業に資産を分散するのではなく、1つの事業に特化する。そして自社ですべてをコントロールできるよう垂直統合をすることで明確な差別化を構築できました。

 この論理が逆になったいま、資産を持つことのリスク、そして一つの事業に特化するリスクが以前に増して大きくなってきたのです。

 このような時代に、組織の前提も大きく異なってきます。つまり、1社で事業を完結させるのではなく、他社と事業を構築する。現在の事業から、常に違う事業への展開ができるよう外部環境に敏感になる。こういう姿勢が求められると、企業という組織で内部の求心力を高める尽力が、逆効果になりかねません。企業の枠を超えた事業で求められるのは組織の求心力ではなく、事業の求心力です。「同じ会社の一員」という仲間意識より「同じ事業を営む一員」という、事業をベースとした一体感が必要です。

 企業内で言われた「運命共同体」という言葉は、「企業がつぶれたら同じ運命をたどる」という前提でした。これとて、つとめた企業がつぶれても職に困る人と引く手あまたの人の差はいまや相当開いているでしょう。もはや「共同体」も現実としては幻想かもしれません。

 つまり組織の境界線がもつ意味が変わってきたのです。とは言え、一つの企業としての組織の一体感が必要でなくなることは決してありません。資本の単位としての企業であり、マネジメントの単位としての企業は決してなくならない概念だからです。一方で事業運営の境界線があいまいになってきたいま、それに従事する人を束ねる求心力は、新しい定義が求められているのです。(編集長・岩佐文夫)