優れたリーダーシップによって部下の離職は減る、という通念がある。しかし、有能な上司ほど部下を活躍させるため、むしろ転職の機会を増やすという現象が示された。本記事から「元社員との絆」の重要性が浮き彫りになる。
「人は会社を辞めるのではなく、悪しき上司の下から去るのだ」という、世間一般の通念がある。
しかし我々の研究では、社員はよい上司からも悪い上司からも、ほぼ同じ割合で去ることが示された(他のリーダーシップ研究でもその証拠は増えつつある)。最近発表した論文(スミタ・ラグラムおよびシャンミン・リュウとの共著)のなかで、我々はその理由を探っている(英語論文)。
はじめに、ある大手多国籍IT企業で700名強の従業員にアンケート調査を実施。リーダーシップ研究で広く使われている、5つの記述への同意度を答えてもらった。たとえば「私は上司との関係をよく把握している」「上司は私の職務上の問題やニーズを理解している」「上司はその権限を行使して、私の職務上の問題解決を助けてくれる」などである。その後、回答を集計して、各々の上司についてリーダーシップの総合得点を出した。
18ヵ月後、もう一度アンケート回答者のリストを見て、会社を辞めた人を調べた。そして第三者のコンサルタントがこれらの元社員たち(計128人)と面談し、「なぜ会社を辞めたのか」「新しい仕事は前職とどう違うのか」を訊いた。そして、最も肝心な点として、「元の会社に対するイメージは変わったか」も尋ねた。
その調査結果は驚くべきものだった。
優れたリーダーシップは、部下の離職を減らす要因ではなかったのだ。理由はまさに、そのリーダーが優れているがゆえである。部下をよく支える上司ほど、部下に権限を与え、より責任の重いやりがいある仕事を任せるものだ。するとその部下は、他社から見ても欲しい人材に育つ。結果、他社のもっとよい条件(高給や大きな職権など)を求めて辞めてしまうというわけだ。
ただし、希望もある。前職で優れた上司に恵まれていた人を、我々は「円満退職者」と呼んでいる。コンサルタント会社が彼らに、前の職場に対する感情を尋ねたところ、回答は圧倒的にポジティブなものだった。質問は、「前の職場についてポジティブな意見を持っていますか?」「他の人に働き口として前の職場を紹介しますか?」「あなたが前の職場に出戻る可能性はありますか?」などである。
つまり優れたリーダーシップは、社員との間に友好を築き退職後もOB・OGとして関係を持ち続けてもらううえで、重要な手段となるのだ。それによって彼らは後々、貴重な情報をくれたり、会社を他者に推奨してくれたり、ビジネスチャンスをもたらしてくれたりする。
ただし、有能な部下を失っても得られる上記のメリットには、1つ重要な留意点がある。我々の研究によると、優れたリーダーシップが元社員との友好関係につながるのは、退職時に誠意ある慰留の努力をした場合だけである。したがってマネジャーは、辞意を示す部下を支援し、できればカウンターオファーを出すべきだ。優れたリーダーと部下の友好関係を損なわずに、退職後も維持するうえで、こうした慰留の努力は非常に重要となる。