「脱官僚的なマネジメント」を「トップダウンによる変革」で進めることの矛盾を、ハメルが鋭く指摘する。ザッポスの「ホラクラシー」もその例だ。新たなマネジメント手法を探り導入する、最善の方法とは何か。
官僚主義は、あらゆる抵抗に屈せず驚くほどにしぶとい。
米国労働統計局のデータを我々が分析したところ、米国経済におけるマネジャー、監督者、管理・間接業務者の数は1983年以降ほぼ2倍に増加したが、他の職種における雇用の伸びは40%にも達していない(英語報告書)。米南部の森林に広くはびこり生態系を脅かしている、除草剤の効かない外来種「葛」のように、官僚主義は米企業の至るところに根を張っている。
なぜ、官僚主義は根絶がこれほど難しいのだろうか。
第1に、それは馴染み深いからだ。地球上に存在する中・大規模のほぼすべての組織にとって、官僚主義は経営管理上のオペレーティングシステムのようなものである。官僚主義はどこにでもあり、どこでも同様で、必要にして不可避なものと広く見なされている。
第2に、この現状を維持することで既得権を得るマネジャーが数多くいるからだ。官僚主義とは、大規模で多くの人が関わるゲームである。そのゲームに長けている者は概して、それを変えることなど望まない。30年かけて取締役バイスプレジデントの権力と特権を手に入れた人物は、役職名の格が落ちるうえに階級と報酬額が連動しなくなる提案を、好ましく思うはずもない。
第3に、脱官僚的な組織を構築するための、確立された方法などない。官僚的でないことで有名な会社はいくつかある。カリフォルニアを拠点とするトマト加工会社のモーニングスターや、ゴアテックスで知られるハイテク素材メーカーのW.L.ゴアなどであり、そこからインスピレーションを得ることはできる。しかしこれらの企業は、その独特のマネジメント手法を数十年かけてつくり上げてきたのだ(両社は上司がおらず階層もなく、従業員が自主管理する)。
両社やその他の先駆的企業から学ぶべきことは多い。とはいえ、官僚主義にしばられたマネジメントモデルを根本から変えようと望む組織はいずれも、独自の方法を編み出す必要がある。それは、人体の臓器移植に初めて挑んだ外科医が直面したであろう状況と同じようなものだ。リスクもリターンも高く、手順はほとんど確立されていない。
第4に、官僚主義はある意味、うまく機能するがゆえに根絶しにくい。官僚的な構造と制度はどれも、その実情はどれほど拙くとも、目的を果たしている。したがってこれを単純に除去しようとすると、大混乱が生じるだろう。たとえば、現場の従業員に、自主管理に必要なスキルやインセンティブや情報が付与されていない状態で、中間管理職を大幅に減らしたらどうなるか想像してみよう。
官僚主義を撤廃することは、古い建物を解体してその土地に新しい建物を建てるのとは違う。建物全体を丁寧に修復し、崩壊を防ぐようなことなのだ。
以上をふまえれば、官僚主義の根絶を壮大なトップダウン式の計画でやろうとすると、ほぼ間違いなく失敗する。
オンライン小売企業のザッポスが、メンバー間で意思決定し合う「サークル」という集団単位を導入して管理職の撤廃を試みた時、何が起きたか見てみよう。