他国市場での展開を阻む、規制や制度や文化のさまざまな壁。フェイスブック、アマゾン、アップルが最近インドで直面したこれら「コンテキスト上の問題」を振り返り、教訓を探る。
世界のテクノロジー業界における次の大きなトレンドの1つが、インド消費者の取り込みであることは間違いないと思われる。一部の予測では、この国のインターネット利用者は2030年までに10億人に達するという。現在、インターネットにアクセスできるのは総人口13億人のうち5分の1程度だ。それでも、スマートフォンの出荷台数ではすでに米国を抜き去り、中国に次ぐ世界第2位の市場と化している。
証拠は他にもある。たとえばフォレスター・リサーチの報告によると、インドにおけるオンラインでの消費額は、2015年の121億ドルから2020年には750億ドル近くまで増える見込みだという。
インドに流入したベンチャーキャピタル(VC)の資金は、2015年だけで90億ドルに上り、ユニコーン企業(評価額が10億ドル以上の非上場ベンチャー企業)が4社も誕生している。スタートアップのエコシステムという観点では、インドは世界で最もダイナミックなハブの1つと言えよう。コンパスが2015年に行った調査では、VCからの投資総額とシード投資の対象地として最も急成長を遂げているのはバンガロールで、これまで人気だったシンガポール、パリ、テルアビブの成長率を凌駕している。
インドの人口動態も有利に働いている。2020年には9億人が就労年齢に達する。その時の平均年齢は29歳という若さで、彼らのほとんどがデジタル製品を切望するだろう。
そうした需要の高まりに加え、供給側の企業もインド市場に売り込む準備を整えている。世界中のテクノロジー業界にはインド系の人々が多くいるうえ、テクノロジーのエコシステムにおける複数の有力プレーヤーは、インド系をCEOに据えている。マイクロソフト、グーグル、アドビ、ノキア、マスターカード、ソフトバンクなどはそのごく一部だ。こうした大手の経営陣の顔ぶれと、インドの有望なテクノロジー市場との間には、明らかに意図があり関連がある。
先進国市場はすでに成熟。もう1つの大国である中国に進出した主要テクノロジー企業は、市場への浸透に苦戦を強いられている。ゆえに、インドの消費者がもたらす商機は特に魅力的なのだ。
このように魅力にあふれてはいるが、インドでの商機は弱腰の企業には開かれない。この国はテクノロジー業界に対し、きわめて複雑に絡み合うさまざまな「コンテキスト(状況・文脈)上の問題」を突きつけるからである。
この市場に参入するには、他の市場とはかなり異なる多くの社会政治的要因、環境的要因、制度的要因を十分に理解しなければならない。さらに、それらのコンテキスト要因を市場戦略およびビジネスモデルに組み込む必要がある。このプロセスが、インドを狙うグローバル企業の行く末を大きく左右するのだ。
グローバル大手が現地のコンテキストのニュアンスを学び蓄積している間に、より優れた「コンテキスト読解力(contextual intelligence)」を持つ地元企業にはいち早く足場を固めるチャンスがある。インドの消費者をめぐる争いにおいて、個々のコンテキストに見合った戦略を持つことこそ、競争優位の真の源泉となるだろう。