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「認知的文化」と「情緒的文化」
ユビキティ・リタイアメント+セイビングスには、退社時にロビーのボタンを押す習慣がある。もっとも、昔ながらのタイムレコーダーで退社時間を記録するのではなく、5つのボタンのいずれかを押すことによって、その時の気分を「記録」するのだ。楽しく仕事ができた日はスマイルマーク、悲しい気分なら、しかめ面マークのボタンを押す、というように。
これは、「社員の気持ちを大切にしている」と見られたい人事部の点数稼ぎだとか、スマイルの数をチームごとに競わせる、言わば満足の押し売りだ、という印象を生むかもしれない。しかし、それは違う。ユビキティ・リタイアメント+セイビングスは、こうして収集したデータをもとに、従業員の動機付け要因、つまり、帰属意識や働く喜びにつながる要因を探り出そうとしているのだ。似たような取り組みをする組織は他にも現れている。従業員がどれくらい仕事を楽しんでいるかをアプリを使って記録する組織。月単位、週単位、時間単位で気分を測定するために、専門のテクノロジーコンサルタントを雇う組織。しかし残念ながら、これらは少数派である。大多数の企業は、従業員がどのような気分かにも、どのような気分であるべきかにも、ほとんど注意を払っていない。望ましい組織文化を築くうえで感情がいかに重要であるか、気づいていないのだ。
企業文化という言葉はたいてい、「認知的文化」を指している。つまり、目標達成への指針としてメンバー間で共有される、知的な理念、規範、成果、前提などである。認知的文化によって、職場での発想や行動の方向付けがなされ、顧客重視、革新性、チーム志向、競争心などの程度や、理想とされる水準が決まる。