大手銀行にとってFinTechは脅威か
それとも新たな機会か

――大手金融機関にとって、FinTechは“脅威”でしょうか、それとも新たな収益獲得の“機会”となりうるのでしょうか。

 アクセンチュアがグローバルの大手銀行25行にヒアリングしたところ、「脅威」と答えたのは40%で、60%が「機会」と回答し、FinTechに対して真剣に取り組む必要があるとしています。

 具体的にどう取り組むか、2つの選択肢があると私は考えています。一つは、顧客の裏側に存在し、特定の金融ニーズを満たすことに目的を置いた「社会インフラ企業」としての道。もう一つは、顧客の日常生活に寄り添い、生活に根差したサービスを提供する「顧客サービス企業」の道です。

――社会インフラ企業や顧客サービス企業には、どのような事例がありますか。

 米Simpleは決済・資産管理サービスに消費アドバイスを新たな付加価値として提供しています。たとえば、1年後に婚約するとします。婚約までにエンゲージリングを用意する必要があります。期間と目標額をスマホのアプリに入力すれば、お金の使い方を常時モニタリングし、目標額に対してどのぐらい貯まっているか、無駄遣いはしていないかなどアドバイスしてくれるしくみです。顧客サービス企業型で、特定の金融シーンに特化した「金融サービスアグリゲーター」としてのビジネスモデルといえます。

 支付宝(アリペイ)はアリババグループが提供する中国最大規模のオンライン決済サービス。決済・資産管理サービスに、モバイルウォレットを中核とした包括サービスを組み合わせて提供しています。オーストラリアのコモンウェルス銀行は、拡張現実の技術を使った住宅購買サービスを住宅ローンと組み合わせて提供しています。これらは顧客サービス企業型ですが、エコシステムを志向した「エブリデイバンク」のビジネスモデルです。

 社会インフラ企業型の「先端プロダクトプロバイダー」としては、中小企業向け融資を手がける米Kabbageがあげられます。ECサイトの小売業者に対し、B/SやP/Lではなく、商品の受注や出荷のデータを活用・分析し、先行指標に基づく融資判断により従来は与信できなかった顧客への融資機会の創出を行っています。

 いずれにせよ、FinTechを新たな収益獲得の機会とするには、顧客の前に立ちサービスを行うのか、後ろの深いところで顧客を支えるのか、金融に特化するのか、新たなサービスを包括して提供するのか、金融機関は自ら目指す方向性を踏まえ、テクノロジーの活用を検討していく必要があります。