日本のFinTech投資額は
米国のわずか190分の1
――自ら目指す方向性を踏まえテクノロジーの活用し、イノベーションを創出することは容易ではなさそうです。
イノベーションの創出は、期待するレベル感によってやるべきことや必要となるケイパビリティが異なります。「レベル1:既存ビジネスにおける収益機会の抜本的向上」であれば、現場の課題を吸い上げ、適応可能技術に関する見識を蓄積し、両者のマッチングを実現すればいいでしょう。
「レベル2:既存事業領域での新規ビジネスモデル模索・収益多様化」では、他業態のビジネスモデルの洞察力、マネタイズスキームの発想と構想が成功のカギとなります。
そして、国内の金融機関が最も苦手とするのが、「レベル3:市場・ビジネス自体の創出と新たな収益源の獲得」です。これには、高確度の事業アイデアの創造と築盛、アイデアの迅速な着手判断、投資ポートフォリオとしての管理などが求められます。レベル3の目的を達成するには、イノベーション体質を構成する6つの要素を金融機関としてどのように担保していくか明確にする必要があるでしょう。
1つ目は、アジェンダ設定。イノベーションを通じて実現する姿をビジョンとして描けるかどうか。2つ目は、イノベーション・シード。必要となるイノベーション・シードの収集先との連携が重要です。3つ目は、投資・案件管理。シードそのものもそうですが、実際の案件も含めポートフォリオとして管理していく必要があります。
4つ目が、ソリューション。イノベーション展開の確度とスピードを上げるために必要なソリューションやテクノロジーを用意できるかどうか。5つ目が、商品・サービス開発。顧客ニーズをとらえたサービスの企画・立案を、ビジネス・テクノロジー・クリエイティブの三位一体で行うことができるか。そして6つ目が、人材・カルチャーです。ルールのないところに新たなものを生み出すことができる人材、それを許容するカルチャーが必要です。
――日本のFinTech市場の現状について伺います。今後、成長を加速させるには何が必要ですか。
日本のFinTech投資額は現状、先行する米国の約190分の1にすぎません。経済規模や金融分野のIT投資比率(米国の3分の1~5分の1程度)などを考えると、まだまだ成長の余地があり、本格化するのはこれからです。FinTech市場の成長を加速させるには、金融機関、起業家、投資家、政府・行政、アクセラレータという五つの要素から成るベンチャーエコシステムがうまく機能していくことが期待されます。

これらのうち、金融機関、政府・行政、アクセラレータについては環境整備が進みました。今後は、起業家が増加し、投資家によるリスクマネー供給が増えて、成功体験を積み重ねていくことが、FinTech市場の盛り上がり、ひいては金融イノベーションの創出を加速させていくでしょう。
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(構成/堀田栄治 撮影/宇佐見利明)